事実認定の根拠として判決に引用する文書が真正に成立したこと及びその理由は、判決書の必要的記載事項ではない。
事実認定の根拠として判決に引用する文書が真正に成立したこと及びその理由を判決書に記載することの要否
民訴法191条1項,民訴法325条,民訴法395条1項6号
判旨
裁判所は、当事者が主張立証を怠った事項であっても、それが審理判断されてしかるべき重要事項であり、かつ判決が実体的真実に反する可能性が高い場合には、釈明権を行使して審理を尽くすべき義務を負う。
問題の所在(論点)
当事者が適切な主張立証を怠っている場合であっても、裁判所が釈明権を行使して審理を尽くすべき義務(釈明義務)を負うか、その要件が問題となる。
規範
民事訴訟法における釈明権(149条)は、原則として裁判所の裁量に属するが、①当該事実が当事者の主張に照らして当然に審理判断されるべき事柄であり、かつ、②これをしなければ判決の結論が明らかに実体的真実に反するものとなる可能性が高い場合には、例外的に釈明権を行使して審理を尽くすべき義務が生じる。
重要事実
被上告人は、Dが昭和32年8月5日の所有権保存登記(自主占有転換点)から20年経過により本件土地を時効取得したと主張した。これに対し、上告人は時効完成前の昭和52年4月26日に贈与を受け登記を得ていた。原審は、乙土地(隣接地)の売渡し時期が不明であるとして保存登記日を転換点とし、時効完成を認めた。しかし、隣接する甲土地の売渡しは昭和29年であり、乙土地の売渡し時期も公文書等で証明可能かつ昭和32年4月26日以前である可能性が高かった。
事件番号: 昭和44(オ)431 / 裁判年月日: 昭和46年6月18日 / 結論: 破棄差戻
当事者が代物弁済予約の存在を前提に、その予約完結に基づく本登記義務の存否を争つている場合において、裁判所が審理の結果、右予約の実質は、債権担保のための清算型代物弁済予約であり、しかも、後順位抵当権が実行中であつて、右請求がそのまま認容しえないことが判明したときは、裁判所は、当事者に対し、その法律関係について釈明を求める…
あてはめ
本件における自主占有への転換時期は、時効完成が第三者(上告人)の登記取得前後どちらになるかを左右する決定的な事実である。隣接地の売渡し時期が公文書で証明可能であることに照らせば、本件土地の売渡し時期も同様に証明できる可能性が高く、これを看過して保存登記日を基準とすることは実体的真実に反する可能性が高い。したがって、上告人が主張立証を怠ったとしても、裁判所は釈明権を行使すべきであったといえる。
結論
原審には釈理不尽の違法があり、適切に釈明権を行使して審理を尽くすべき義務がある。よって、原判決を破棄し、差し戻す。
実務上の射程
弁論主義の例外として「釈明義務」が認められる限定的な場面(決定的な事実かつ容易に立証可能な場合)を示す。答案では、当事者の過失がある場合でも、実体的真実との乖離が著しい際の救済理論として活用できる。
事件番号: 昭和37(オ)106 / 裁判年月日: 昭和38年6月7日 / 結論: 棄却
一 準備書面の第一審口頭弁論期日における陳述がなされなかつたからといつて、控訴審でこれに記載されている主張をするかどうかを確かめる釈明義務はない。 二 (省略)
事件番号: 昭和54(オ)19 / 裁判年月日: 昭和54年7月31日 / 結論: 破棄差戻
占有者の占有が自主占有にあたらないことを理由に取得時効の成立を争う者は、右占有が他主占有にあたることについての立証責任を負う。
事件番号: 昭和54(オ)1166 / 裁判年月日: 昭和55年7月15日 / 結論: その他
土地所有権に基づく土地明渡請求事件において、被告が抗弁として右土地の買受けを主張するとともに、事情として右土地を買受けの時まで長期にわたり賃借していた旨陳述し、原告も賃貸の事実を認めていたなどの訴訟の経過があるにかかわらず、右の売買の無効を判断しただけで、右の陳述の趣旨を釈明せず、占有権原の存否について審理を尽くさない…
事件番号: 昭和40(オ)246 / 裁判年月日: 昭和41年12月20日 / 結論: 棄却
取得時効の成否の判断にあたり、占有開始の起算日についてその弁論が、判示のように口頭弁論調書に記載されている以上、右日時をもつて占有を開始した事は当事者間に争いがない旨判示しても、原判決には違法があるとはいえない。