取得時効の成否の判断にあたり、占有開始の起算日についてその弁論が、判示のように口頭弁論調書に記載されている以上、右日時をもつて占有を開始した事は当事者間に争いがない旨判示しても、原判決には違法があるとはいえない。
取得時効の成否の判断にあたり占有開始の起算日の調書の記載により右日時について当事者間に争いがないとした原判決の判断を違法といえないとした事例
民法162条,民訴法144条,民訴法147条,民訴法257条
判旨
取得時効の起算点となる占有開始時期について、当事者が主張し争いのない事実は、裁判所を拘束する自白の対象となり、裁判所はこれと異なる事実を認定することはできない。
問題の所在(論点)
取得時効の起算点について、当事者間に一致した主張がある場合に、裁判所はこれに拘束されるか(裁判上の自白が成立するか)。また、一度なされた自白を「錯誤」を理由に事後的に争うことができるか。
規範
民事訴訟における自白(民訴法179条参照)は、当事者が申立てた主要事実について、相手方が一致してこれを認める陳述を指す。時効の起算点は、時効完成の要件である占有期間を特定する主要事実であり、当事者間に争いがない場合には、裁判所はその事実に拘束され、これに反する事実を認定してはならない。
重要事実
被上告人(被告)は、前主Dが昭和25年6月24日に本件土地の占有(埋立着手)を開始し、自身がその占有を承継したことにより、昭和35年6月24日の経過をもって10年の取得時効(民法162条2項)が完成したと主張した。これに対し上告人(原告)は、Dが同日から占有を開始したこと、および被上告人がその占有を承継した事実については認めるが、善意無過失である点等を争う旨を口頭弁論期日において陳述した。原審はこの占有開始日の合致に基づき、占有開始時期を当事者間に争いがないものとして処理した。
事件番号: 昭和54(オ)19 / 裁判年月日: 昭和54年7月31日 / 結論: 破棄差戻
占有者の占有が自主占有にあたらないことを理由に取得時効の成立を争う者は、右占有が他主占有にあたることについての立証責任を負う。
あてはめ
本件では、被上告人が主張した占有開始時期(昭和25年6月24日)に対し、上告人が「認める」旨を明示的に陳述している。この事実は、占有期間という法的効果を導くための基礎となる主要事実に該当する。上告人は、かかる陳述が裁判所書記官の誤記である、あるいは錯誤に基づく無効であると主張するが、記録上これを裏付ける資料はなく、また原審で適切に主張されていない。したがって、占有開始日を争いがないものとした原審の認定は、自白の拘束力に基づき適法である。
結論
時効の起算点に関する当事者間の合致は、裁判所を拘束する自白として機能する。したがって、本件占有開始時期の認定に違法はなく、上告を棄却する。
実務上の射程
時効の起算点は主要事実として自白の対象となる(判例通説)。答案上は、時効の成否を検討する際に、設問で「起算点について争いがない」との事情があれば、自白の拘束力に触れつつ、裁判所が認定の基礎とすべき事実として扱う。弁論主義の第一テーゼ(主張責任)および第二テーゼ(自白の拘束力)の典型例として位置づけられる。
事件番号: 昭和42(オ)1441 / 裁判年月日: 昭和43年6月6日 / 結論: 棄却
土地の不法占有を原因とする賃料額相当の損害金請求訴訟において、原告が右相当賃料額を一ケ月金一、〇九〇円と主張したのに対し、被告はいつたん右主張を認めたが、控訴審にいたつてこれを争い、その金額を一ケ月金一、〇八九円である旨主張する等判示のような事情が存在する場合には、右被告の主張の態度、変更後の陳述の内容その他本件に表わ…
事件番号: 昭和35(オ)1037 / 裁判年月日: 昭和36年3月30日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】口頭弁論において当事者間に争いのない事実は自白としての効力を有し、裁判所はこれに拘束される。そのため、提出された証拠の記載が自白の内容と矛盾する場合であっても、裁判所は自白に反する事実認定を行うことはできない。 第1 事案の概要:本件土地の所有権について、被上告人の所有に属する事実が第一審判決の事…