甲所有の土地を買い受けてその所有権を取得したと称する乙から右土地を賃借した丙が、右賃貸借契約に基づいて平穏公然に目的土地の占有を継続し、乙に対し賃料を支払つているなど判示の事情のもとにおいては、丙は、民法一六三条の時効期間の経過により、甲に対して右土地の賃借権を時効取得することができる。
土地賃借権の時効取得が認められるとされた事例
民法163条,民法601条
判旨
土地の賃借権の時効取得(民法163条)が認められるためには、土地の継続的な用益という外形的事実が存在し、かつ、その用益が賃借の意思に基づくものであることが客観的に表現されていることを要する。
問題の所在(論点)
民法163条の「財産権」として土地賃借権を時効取得するための要件、特に「賃借の意思の客観的表現」の具体的内容が問題となる。
規範
民法163条に基づき土地の賃借権を時効取得するには、①他人の土地の継続的な用益という外形的事実が存在し、かつ、②その用益が賃借の意思に基づくものであることが客観的に表現されていることを要する。具体的には、土地の所有者と称する者との間で締結された賃貸借契約に基づき、平穏公然に継続的な用益を行い、かつ賃料の支払を継続している場合には、上記要件を満たすものとして、真実の所有者との関係でも賃借権を時効取得し得る。
重要事実
上告人らは本件土地の所有権を相続及び贈与により取得し、昭和43年に登記を経由した。一方、被上告人らの被相続人Iは、昭和25年にH(土地の所有者と称する者)から土地上の建物を買い受けるとともに、Hとの間で本件土地につき建物所有目的・賃料年額1600円の賃貸借契約を締結した。I及び被上告人らは、昭和25年から昭和55年までの間、本件建物に居住して土地を継続的に用益し、H側へ賃料を支払い続けてきた。上告人らから明渡請求がなされないまま20年が経過したため、被上告人らは昭和45年5月の経過をもって賃借権を時効取得したと主張し、援用した。
あてはめ
Iは、本件土地の所有者と称するHとの間で有効な賃貸借契約を締結し、これに基づき建物を所有して土地の占有を継続している(外形的事実)。また、約定の賃料を長期間にわたって継続的に支払っており、かつ土地の明渡請求も受けていなかった。これらの事実は、単なる不法占拠ではなく「賃借の意思」に基づき土地を用益していることを客観的に外部へ表現するものといえる。したがって、占有開始から20年が経過した昭和45年5月12日の経過により、真実の所有者である上告人らとの関係においても、Iに土地賃借権の時効取得が認められる。
結論
被上告人らの被相続人Iは、本件土地の賃借権を時効取得したといえるため、これを相続した被上告人らは上告人らに対し賃借権を対抗できる。
実務上の射程
賃借権の時効取得は、不法占拠者に広く認めるものではなく、「賃料支払」という客観的事実を重視して認められる。答案上、所有権の時効取得(162条)と対比しつつ、賃借権独自の要件として「客観的表現」を落とさず記述する必要がある。また、本判決は「真実の所有者ではない者」を貸主として契約した場合でも時効取得が可能であることを示した点に実務上の意義がある。
事件番号: 昭和53(オ)719 / 裁判年月日: 昭和53年12月14日 / 結論: 棄却
土地賃借権の無断譲受人が、土地の引渡を受けながら賃貸人に賃料を支払つたことがなく、また、賃貸人に賃借権譲渡の承諾を求めたが拒絶され、かえつて譲渡人との賃貸借契約は既に解除ずみであるとして土地の明渡を求められ、その後にいたつて賃料の弁済供託を開始したなど、判示の事実関係のもとにおいては、譲受人が賃借意思に基づいて土地の使…
事件番号: 昭和41(オ)991 / 裁判年月日: 昭和44年7月8日 / 結論: 破棄差戻
他人の土地の用益がその他人の承諾のない転貸借に基づくものである場合において、土地の継続的な用益という外形的事実が存在し、かつ、その用益が賃借の意思に基づくものであることが客観的に表現されているときは、その土地の賃借権ないし転借権を時効により取得することができる。