土地賃借権の無断譲受人が、土地の引渡を受けながら賃貸人に賃料を支払つたことがなく、また、賃貸人に賃借権譲渡の承諾を求めたが拒絶され、かえつて譲渡人との賃貸借契約は既に解除ずみであるとして土地の明渡を求められ、その後にいたつて賃料の弁済供託を開始したなど、判示の事実関係のもとにおいては、譲受人が賃借意思に基づいて土地の使用を継続したものということはできず、賃借権の時効取得を認めることはできない。
土地賃借権の無断譲受人による土地の使用が賃借意思に基づくものではないとして賃借権の時効取得が否定された事例
民法163条,民法601条,民法612条
判旨
不動産賃借権を時効取得するためには、継続的な土地の使用および賃料の支払等の「賃借意思」が客観的に表現されている必要があるが、無断譲受後長期間賃料を支払わず、承諾を拒絶された後に供託を始めたに過ぎない場合には、賃借意思に基づく継続的使用とは認められない。
問題の所在(論点)
土地の無断譲受人が賃借権の時効取得を主張する場合において、賃料の支払を遅延し、地主から明渡しを求められている状況下での占有が、「賃借意思に基づく継続的使用」に該当するか(民法163条、162条の準用)。
規範
不動産賃借権の時効取得(民法163条)が認められるためには、①目的物の継続的な土地の使用という外形的事実が存在し、かつ、②それが賃借の意思に基づくものであることが客観的に表現されていることを要する。この「賃借意思の客観的表現」の成否は、賃料の支払や地主との関係性、占有開始の経緯等を総合して判断される。
重要事実
Dから建物と共に本件土地の賃借権を譲り受けたE(上告人らの被承継人)は、地主(被上告人)の承諾を得ないまま占有を開始した。Eは譲受後も賃料を支払わず、約1年後に承諾を求めたが拒絶され、建物の収去と土地の明渡しを求められた。Eが賃料相当額を初めて弁済供託したのは占有開始から約2年3か月が経過した時点であり、その後は継続的に供託を行っていたが、地主側は一貫して不法占有を主張していた。
あてはめ
Eは昭和34年5月の占有開始から昭和36年8月に至るまで約2年以上にわたり、賃料を一切支払っていない。また、昭和35年6月に賃借権譲渡の承諾を拒絶され、賃貸借契約の解除を理由に明渡しを求められている。このような状況下での占有は、賃貸借という法律関係に基づく正当な占有を継続する意思が客観的に示されているとは言い難い。昭和36年以降に供託を開始した事事実を考慮しても、当初からの占有が賃借意思に基づくものと評価することはできず、時効取得の要件を欠くといえる。
結論
Eが賃借意思に基づいて土地の使用を継続してきたものということはできないため、賃借権の時効取得は認められない。
実務上の射程
賃借権の時効取得における「賃借意思」の判断基準を示した事例である。単に「借りているつもり」であるだけでは足りず、賃料の支払などの対価の提供が適時に継続されていることが決定的に重要視される。司法試験においては、無断譲受や不法占有開始のケースで、賃料の不払期間や供託の有無を摘示し、他主占有権原の客観的表現を否定・肯定する際のメルクマールとして活用すべき判例である。
事件番号: 昭和53(オ)1440 / 裁判年月日: 昭和55年12月11日 / 結論: 棄却
債借権の譲渡を承諾しない賃貸人は、無断譲渡を理由とする契約解除権が時効消滅した場合であつても、所有権に基づき、賃借権の無断譲受人に対し、賃貸借の目的物の明渡を求めることができる。
事件番号: 昭和43(オ)52 / 裁判年月日: 昭和43年11月19日 / 結論: 棄却
一時使用の目的で賃借した土地上に建築された仮設建物を買い受けるとともに賃貸人の承諾なしに賃借権の譲渡を受けた者との間で、賃貸人が土地の一部を右譲受人に売却し、他を明け渡す旨の約束ができたが、譲受人が代金を払わないため右売買契約が解除され、そのため右土地の明渡について話合がされ、結局一〇年の賃貸借契約が締結されるに至つた…
事件番号: 昭和41(オ)991 / 裁判年月日: 昭和44年7月8日 / 結論: 破棄差戻
他人の土地の用益がその他人の承諾のない転貸借に基づくものである場合において、土地の継続的な用益という外形的事実が存在し、かつ、その用益が賃借の意思に基づくものであることが客観的に表現されているときは、その土地の賃借権ないし転借権を時効により取得することができる。