一時使用の目的で賃借した土地上に建築された仮設建物を買い受けるとともに賃貸人の承諾なしに賃借権の譲渡を受けた者との間で、賃貸人が土地の一部を右譲受人に売却し、他を明け渡す旨の約束ができたが、譲受人が代金を払わないため右売買契約が解除され、そのため右土地の明渡について話合がされ、結局一〇年の賃貸借契約が締結されるに至つたものであるときは、本件建物の外観がバラツクとは認められず、譲受人が右建物において商売を営み、生活の根拠にしており、一〇年の期間中に賃料が逐次値上げされたとの事情があつても、借地法第九条にいう一時使用のための借地権を設定したこと明らかな場合にあたる。
期間一〇年の賃貸借につき一時使用のための借地権と認められた事例
借地法9条
判旨
借地法(旧法)の適用を排除する「一時使用目的の賃貸借」に該当するか否かは、賃貸借契約の動機、目的、建物の種類、構造、経過期間等の諸事情を総合考慮して、短期間に限り土地利用を認める合意があったかで判断すべきである。本件では、当初の不法占有的な状態の解消と明渡猶予の経緯から、10年の期間であっても一時使用目的と認められた。
問題の所在(論点)
借地権の譲渡を巡る紛争解決の過程で、10年という比較的長期の期間を設定して締結された土地賃貸借契約が、借地法(旧法)9条の「一時使用」にあたるか。
規範
借地法(旧法)9条(現行借地借家法25条)にいう「一時使用のために借地権を設定したことが明らかである場合」とは、賃貸借の合意の動機、目的、土地上の建物の種類、構造、存続期間、借賃の額その他の諸般の事情を総合考慮し、客観的に借地権の存続を短期間に限定すべき特別な事情が認められる場合を指す。契約期間の長短のみならず、契約締結に至るまでの経緯や、明渡しの合意の有無といった主観的事情も重要な判断要素となる。
重要事実
事件番号: 昭和44(オ)1017 / 裁判年月日: 昭和47年2月10日 / 結論: 棄却
土地賃貸借契約成立の事情として、賃貸人は、当初、賃借人の借地申入れに対し、他人に土地を貸すときは回収が困難になるとして賃貸することに反対していたが、賃借人や仲介に入つた知人から、一時しのぎに僅かな土地でもよいし、何時でも取り払える仮小屋の建物でよいから」と執拗に懇請され、やむなくバラツク建物に限り建築を許す趣旨で、約六…
本件土地の当初の賃借人Dは、被上告人(賃元)から一時使用目的で賃借し仮設建物を建築した。上告人(賃借人)はDから建物と賃借権を譲り受けたが、被上告人は譲渡を承諾しなかった。その後、被上告人が土地売却や明渡しを求める中で交渉が行われ、最終的に「当初5年、後に7年、最終的に10年」という期間を設けて明渡すことに合意し、10年間の賃貸借契約が締結された。上告人は本件建物で茶商を営み生活の本拠としていたが、建物外観はバラックとは認められず、期間中に賃料の逐次値上げも行われていた。
あてはめ
まず、本件契約の経緯をみると、元々無断譲渡の状態から被上告人が明渡しを求める中で、上告人の要望を容れる形で段階的に猶予期間を延ばし、最終的に10年後の明渡しを前提に締結されたものである。この点は、借地法の強力な保護を恒久的に与える意図がないことを示す。また、上告人が生活の本拠として茶商を営んでいたことや、期間が10年と比較的長く、賃料値上げも行われていた事実は借地権の成立を推認させる方向にはたらく。しかし、当初が仮設建物であることや、明渡しの猶予として期間が設定されたという主観的・動機的事情を重視すれば、なお本件契約は一時的な土地利用に限定する合意であったと評価できる。
結論
本件賃貸借契約は一時使用のためにされたものと解するのが相当である。
実務上の射程
契約期間が10年という、一時使用としては比較的長期に及ぶ事案においても、不法占有等の紛争解決や明渡猶予の文脈で締結されたものであれば、一時使用目的が肯定される可能性があることを示した。答案上は、存続期間や建物の堅固性といった客観的事態だけでなく、契約締結の「動機」や「経緯」を重視するあてはめにおいて活用すべきである。
事件番号: 昭和43(オ)2 / 裁判年月日: 昭和44年7月31日 / 結論: 破棄差戻
土地賃貸借契約のさい、都市計画事業の施行による区画整理が予定され、賃貸人においてその実施後の土地を自ら使用する計画を有し、賃借人もこれを諒承し、地上に仮設建物のみを所有しうる一時使用のための賃貸借であることを公正証書に明記して、契約を締結した場合においては、賃借人が前所有者から土地を賃借しその上に建物を所有していて、新…
事件番号: 昭和39(オ)58 / 裁判年月日: 昭和39年7月3日 / 結論: 棄却
土地の賃貸借契約が当初甲市内に散在していた露天商を一時整理収容するために市役所等のあっせんにより期間を一年と限って成立し、その後借地人らの申出によって期間を限って契約が再三更新され、かつ、最終の契約においては、期間を一年三箇月とし賃貸人の許可なく組立式以外の建物の築造を禁止し、夜警以外の居住を禁止するなど原判決の認定の…
事件番号: 昭和40(オ)551 / 裁判年月日: 昭和42年3月16日 / 結論: 棄却
神社の境内地を終戦直後に区画整理施行日までを期限としてマーケツト建設のため賃貸した場合には、権利金代りの寄付をうけ、中途賃料の増額が行われたとしても借地法第九条にいう「一時使用ノ為借地権ヲ設定シタルコト明ナル場合」にあたる。
事件番号: 昭和44(オ)800 / 裁判年月日: 昭和45年3月12日 / 結論: その他
戦災による地上建物の焼失後にその居住者を含む多数の者が権原なく土地を占有し、土地所有者は、その罹災者たる立場に同情したが、従来右士地の使用に関し多年紛争を繰り返して、右罹災当時も裁判上の和解により建物居住者に対する明渡を猶予中であつたという事情に鑑み、暫定的にのみ右占有者らの土地使用を許諾することとし、占有者らもその趣…