戦災による地上建物の焼失後にその居住者を含む多数の者が権原なく土地を占有し、土地所有者は、その罹災者たる立場に同情したが、従来右士地の使用に関し多年紛争を繰り返して、右罹災当時も裁判上の和解により建物居住者に対する明渡を猶予中であつたという事情に鑑み、暫定的にのみ右占有者らの土地使用を許諾することとし、占有者らもその趣旨を諒承したうえ、本建築にあらざる仮建築物の所有を目的とし、存続期間を戦時罹災土地物件令三条一項所定の停止期間に限る旨を約して賃貸借契約を締結したなどの判示の事実関係のもとにおいては、右土地賃貸借は、借地法九条所定の一時使用のための賃貸借にあたるものと認められる。
一時使用のための借地権にあたるとされた事例
借地法9条
判旨
借地法9条(現借地借家法25条)の「一時使用」にあたるかは、賃貸借の目的、期間、土地利用の態様、賃貸借に至る経緯等を総合考慮し、短期間に限り賃貸借を存続させる合理的理由があるかによって判断される。戦災後の緊急事態において、将来の確実な返還を期して存続期間を限定して締結された賃貸借は、一時使用の借地権として認められる。
問題の所在(論点)
戦災後の混乱期に、仮建築物の所有を目的として存続期間を限定して締結された賃貸借契約が、借地法9条(一時使用目的の借地権)に該当するか。
規範
借地法9条(現借地借家法25条)にいう「一時使用のために借地権を設定したことが明らかである場合」とは、賃貸借の目的、期間、土地利用の態様、賃貸借に至るまでの経緯等、諸般の事情を総合的に考慮し、短期間に限り賃貸借を存続させる合理的理由がある場合をいう。
重要事実
土地所有者である被上告人は、関東大震災後から占有を続ける者らと紛争を繰り返し、和解により建物の明渡猶予を認めていた。昭和20年の空襲で建物が全焼した後、上告人らが本件土地に急造建物を築造して飲食業を開始した。被上告人は罹災者の境遇に同情しつつも、将来の長期占有を避けるため、戦時罹災土地物件令4条の存続期間に準じ、仮建築物の所有を目的として、短期間の停止期間に限る旨を合意して賃貸借契約を締結した。
事件番号: 昭和34(オ)879 / 裁判年月日: 昭和35年3月30日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】土地および建物の賃貸借が、借地法(現借地借家法25条)および借家法(現借地借家法40条)にいう「一時使用」にあたるかは、賃貸借成立の経緯、使用目的、建物の規模構造、期間の定めおよびその理由等を総合考慮して判断すべきである。 第1 事案の概要:土地および土蔵の賃貸借契約において、賃貸期間が短期に定め…
あてはめ
まず、賃貸人は過去の長期にわたる紛争の経緯から、将来の返還を確実に確保する必要があった。次に、契約当時は戦後直後の緊急状態であり、暫定的な措置として短期間に限って土地を貸し出す合理的理由が認められる。さらに、賃借人側もこれらの事情を了承した上で、当時遠からず終了することが予想されていた特定の停止期間内に限る旨の明示の合意をしている。これらを総合すれば、本件契約は一時使用のためのものといえる。
結論
本件賃貸借は借地法9条所定の一時使用のための賃貸借にあたる。
実務上の射程
借地借家法の強行規定(更新規定等)の適用を排除する「一時使用」の該当性を判断するリーディングケースである。答案では、契約書の文言のみならず、①土地利用の目的が仮設的か、②存続期間が客観的に短期間か、③期間を限定すべき合理的・客観的な事情があるか、といった要素を具体的事実から抽出してあてはめる際に活用する。
事件番号: 昭和29(オ)346 / 裁判年月日: 昭和30年6月9日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】借地法9条(現・借地借家法25条)の「一時使用」にあたるかは、賃貸借の目的、期間、地上建物の種類・構造、賃料の多寡等から客観的に判断される。本判決は、原審の認定した事実関係に基づき、本件土地の賃貸借が一時使用のためのものであると認めることが可能であると判示し、上告を棄却した。 第1 事案の概要:本…
事件番号: 昭和39(オ)58 / 裁判年月日: 昭和39年7月3日 / 結論: 棄却
土地の賃貸借契約が当初甲市内に散在していた露天商を一時整理収容するために市役所等のあっせんにより期間を一年と限って成立し、その後借地人らの申出によって期間を限って契約が再三更新され、かつ、最終の契約においては、期間を一年三箇月とし賃貸人の許可なく組立式以外の建物の築造を禁止し、夜警以外の居住を禁止するなど原判決の認定の…
事件番号: 昭和43(オ)52 / 裁判年月日: 昭和43年11月19日 / 結論: 棄却
一時使用の目的で賃借した土地上に建築された仮設建物を買い受けるとともに賃貸人の承諾なしに賃借権の譲渡を受けた者との間で、賃貸人が土地の一部を右譲受人に売却し、他を明け渡す旨の約束ができたが、譲受人が代金を払わないため右売買契約が解除され、そのため右土地の明渡について話合がされ、結局一〇年の賃貸借契約が締結されるに至つた…
事件番号: 昭和29(オ)7 / 裁判年月日: 昭和32年9月19日 / 結論: 破棄差戻
【結論(判旨の要点)】建物の売買に際し、買主が将来の一定期日までに建物を取り壊して運搬することを約し、その期日までの短期間に限り土地を賃貸した場合は、一時使用のための借地権(旧借地法9条)に該当する。このような一時使用の属性は契約の本質に関わるため、前提事実の認識に誤りがあれば民法95条の錯誤無効を招き得る。 第1 事…