甲が乙に賃貸している建物の一部につき、丙が、乙との間において転貸借契約を締結し、平穏公然に当該建物部分を占有使用して、乙に対し賃料の支払いを継続してきた場合において甲が丙の用益の事実を知つたなど判示の事実関係のもとにおいては、丙の用益が転借の意思に基づくものであることが甲に対しても客観的に表現されるに至つたというべきである。
建物転借の意思が客観的に表現されるに至つたとされた事例
民法163条,民法601条,民法612条
判旨
不動産の賃借権も、時効により取得し得る。賃借の意思に基づき、目的物を継続的に用益し、かつ、その用益が客観的に表現されている場合には、賃借権の時効取得が認められ、その権利を所有者に対抗することができる。
問題の所在(論点)
不動産の一部についての転借権が、取得時効(民法163条)の対象となるか。また、その成立要件として、所有者に対する客観的な表現がいかになされるべきか。
規範
不動産の賃借権が時効取得(民法163条)されるためには、①賃借の意思に基づく用益であること、②継続的な用益という外形的事実が存在すること、および③その用益が客観的に表現されていることを要する。本規範により、所有者に対し賃借権の時効取得を主張し、対抗することが可能となる。
重要事実
亡父Dは昭和31年に建物の賃借人E社との間で、建物の一部(本件建物部分)について転貸借契約を締結し、賃料を支払いながら占有を開始した。Dの死後は子である被上告人が世帯主として用益を継続した。所有者である上告人は、昭和32年12月末頃にDによる用益の事実を認識した。その後、20年が経過した昭和52年12月末に至るまで占有・用益が継続された。
あてはめ
D及び被上告人は、転貸借契約に基づき賃料を支払って占有しており、①「賃借の意思」に基づき②「継続的な用益」を行っている。さらに、所有者である上告人が昭和32年12月末にDの用益の事実を認識したことにより、その用益が所有者に対しても③「客観的に表現」されるに至ったといえる。したがって、その時点から20年の時効期間が進行し、昭和52年12月末に時効が完成したと解される。
結論
被上告人は、本件建物部分について上告人に対抗しうる転借権を時効により取得した。
実務上の射程
賃借権という債権的権利であっても、継続的用益と客観的表現があれば時効取得の対象となることを認めた重要な判例である。答案上は、所有者の「認識」を客観的表現の重要な要素として位置づけ、賃料支払や占有の継続から「賃借の意思」を認定する。本件は「転借権」の事例だが、通常の賃借権の時効取得にも同様の枠組みが適用される。
事件番号: 昭和51(オ)996 / 裁判年月日: 昭和52年9月29日 / 結論: 棄却
例甲所有の土地につきその管理をまかされ他に賃貸する権限をも与えられていると自称する乙から、これを信じて右土地を賃借した丙が、賃貸借契約に基づき平穏公然に目的土地の占有を継続し、乙及びその相続人らに対して賃料を支払つている、など判示の事情のもとにおいては、丙は、民法一六三条所定の時効期間の経過により、甲に対する右土地の賃…
事件番号: 昭和41(オ)991 / 裁判年月日: 昭和44年7月8日 / 結論: 破棄差戻
他人の土地の用益がその他人の承諾のない転貸借に基づくものである場合において、土地の継続的な用益という外形的事実が存在し、かつ、その用益が賃借の意思に基づくものであることが客観的に表現されているときは、その土地の賃借権ないし転借権を時効により取得することができる。