例甲所有の土地につきその管理をまかされ他に賃貸する権限をも与えられていると自称する乙から、これを信じて右土地を賃借した丙が、賃貸借契約に基づき平穏公然に目的土地の占有を継続し、乙及びその相続人らに対して賃料を支払つている、など判示の事情のもとにおいては、丙は、民法一六三条所定の時効期間の経過により、甲に対する右土地の賃借権を時効取得することができる。
土地賃借権の時効取得が認められるとされた事
民法163条,民法601条
判旨
他人の土地を管理し賃貸する権限があると称する者と賃貸借契約を締結し、土地の継続的な用益が賃借の意思に基づくものであることが客観的に表現されている場合には、民法163条に基づき賃借権の時効取得が認められる。
問題の所在(論点)
不動産の賃借権が民法163条の「財産権」として時効取得の対象となるか。また、真実の所有者ではない者と賃貸借契約を締結して占有を開始した場合に、時効取得の要件である「賃借の意思の客観的表現」が認められるか。
規範
民法163条により土地の賃借権を時効取得するためには、①他人の土地の継続的な用益という外形的事実が存在し、かつ、②その用益が賃借の意思に基づくものであることが客観的に表現されていることを要する。特に、土地の管理・賃貸権限を有すると称する者との間で賃貸借契約を締結し、平穏公然に継続的な用益をしている場合には、右用益が賃借の意思に基づくことが客観的に表現されているものと解するのが相当である。
重要事実
本件土地(宅地)の所有者はD及びEであったが、土地上の建物の賃借人にすぎないFが、所有者から管理と賃貸権限を委ねられていると称して、被上告人らとの間で本件土地の賃貸借契約を締結した。被上告人らはFの言葉を信じて契約し、直ちに整地作業を行って建物を建築し、そこに居住して占有を平穏公然に継続した。また、被上告人らは契約以来、F及びその相続人に対して継続的に賃料を支払っていた。
あてはめ
まず、被上告人らは本件土地上に建物を建築して居住し、占有を継続していることから、継続的な用益という外形的事実(要件①)が認められる。次に、被上告人らは、土地の管理・賃貸権限があると称するFとの間で賃貸借契約を締結し、それに基づき賃料を継続的に支払っている。この事実は、土地の占有が自己のためではなく賃借人としての地位に基づくものであることを外部に明確に示すものであり、賃借の意思が客観的に表現されている(要件②)といえる。したがって、平穏公然の要件も満たす以上、時効期間の経過により賃借権を取得する。
結論
被上告人は、民法163条所定の時効期間の経過により、本件土地の所有者に対する関係において、土地賃借権を時効取得する。
実務上の射程
賃借権という債権的権利であっても、不動産の使用を伴う場合には時効取得を認めるのが判例の確立した立場である。答案では、無権利者からの借受けであっても、賃料支払や建物所有などの外形的実態があれば「賃借の意思の客観的表現」を肯定する論拠として本判例を活用すべきである。なお、対抗要件(登記や建物所有)が時効完成時に具備されている必要がある点には注意を要する。
事件番号: 昭和52(オ)260 / 裁判年月日: 昭和52年10月24日 / 結論: 棄却
原判示の事実関係のもとでは、土地の用益について賃借意思が客観的に表現されたものとはいえず、右土地につき賃借権の時効取得は成立しない。