使用貸借契約により占有を始めた者は、民法二〇五条・一八五条の定めるところに従つて賃借権を行使する意思をもつてする占有に変更されたのちに取得時効に必要な期間を経過した旨を主張立証しないかぎり、賃借権の時効取得を援用することはできない。
使用貸借契約により占有を始めた者が賃借権の時効取得を援用するための要件
民法185条,民法205条
判旨
使用貸借契約に基づき土地の占有を開始した者は、その占有権原の性質上、他主占有と解される。したがって、民法185条所定の占有の性質の変更がなされない限り、賃借権を時効取得することはできない。
問題の所在(論点)
使用貸借契約に基づいて土地の占有を開始した者が、民法163条に基づき賃借権を時効取得することができるか。特に、使用貸借という占有権原の性質が、時効取得に必要な占有の態様に与える影響が問題となる。
規範
権利の時効取得には、自己のためにする意思をもってする占有(自主占有)を要する(民法162条、163条参照)。占有が「自己のためにする意思」に基づくか否かは、占有取得の権原の客観的性質によって決定される(外形的客観説)。使用貸借は無償で借用する契約であり、その権原に基づく占有は性質上「他主占有」に該当する。他主占有者が自主占有へ転換するためには、民法185条に基づき、占有をさせた者に対して所有の意思(または権利行使の意思)があることを表示するか、または新権原によりさらに占有を開始することを要する。
重要事実
上告人らの先代Eは、被上告人らの先代Dとの間で本件土地の使用貸借契約を締結し、土地の使用収益を開始した。その際、麦や公租公課相当額の金員の授受が行われていたが、これらは賃料の支払(賃貸借)ではなく、あくまで使用貸借に付随するものと認定された。その後、上告人らは賃借権の時効取得を主張したが、使用貸借に基づく占有開始後に占有の性質の変更が行われた事実は認められなかった。
あてはめ
本件において、上告人らの先代Eは使用貸借契約に基づき本件土地の占有を開始した。この「使用貸借」という占有権原は、客観的性質上、他人の権利を認める他主占有である。民法205条・185条に照らせば、このような権原に基づく占有者は、自己のために賃借権を行使する意思をもって占有しているとは認められない。また、本件では、他主占有から自主占有(または賃借権行使の意思に基づく占有)への変更を基礎付ける事実、すなわち、占有の性質を変更したのちに取得時効に必要な期間が経過したという主張も認められない。
結論
使用貸借に基づく占有は他主占有であり、占有の性質の変更がない限り、賃借権の時効取得は認められない。したがって、上告人らの請求は棄却される。
実務上の射程
時効取得の成否が争点となる事案において、占有開始時の権原が「使用貸借」や「賃貸借」などの他主占有権原である場合、民法185条の要件を満たさない限り時効取得が否定されることを示す。賃借権の時効取得を論じる際も、所有権の時効取得と同様に「占有権原の性質」による他主占有の判断枠組みが適用されることを確認する実務上重要な判断である。
事件番号: 昭和47(オ)1191 / 裁判年月日: 昭和48年4月13日 / 結論: 棄却
土地に対する使用貸借上の借主の権利の時効取得が成立するためには、土地の継続的な使用収益という外形的事実が存在し、かつ、その使用収益が土地の借主としての権利の行使の意思に基づくものであることが客観的に表現されていることを必要とする。