当事者が代物弁済予約の存在を前提に、その予約完結に基づく本登記義務の存否を争つている場合において、裁判所が審理の結果、右予約の実質は、債権担保のための清算型代物弁済予約であり、しかも、後順位抵当権が実行中であつて、右請求がそのまま認容しえないことが判明したときは、裁判所は、当事者に対し、その法律関係について釈明を求めるべきであり、これをしないで、右理由により直ちに原告の請求を排斥することは、釈明権の行使を誤つたものというべきである。
債権担保のための清算型代物弁済予約について釈明権不行使の違法があるとされた事例
民法482条,民訴法127条,民訴法186条
判旨
裁判所が当事者の主張していない事実を基礎として法律関係を判断する場合や、競売手続の進行状況等の流動的な事実に依拠して権利行使の許否を判断する場合には、当事者に釈明を行い主張立証の機会を与えるべきである。これを怠り審理を尽くさずに判断することは、釈明権行使の誤り及び審理不尽として違法となる。
問題の所在(論点)
当事者が明確に主張していない事実、及び競売の取下げ等により変動し得る流動的事実に基づき、裁判所が釈明なく判断を下すことは、釈明権の行使を誤った審理不尽として違法となるか。
規範
裁判所は、適用すべき法律関係に適合した事実関係を当事者に十分に認識させ、必要な事実に関する主張・立証を尽くさせた上で判断を下すべきである。特に、結論を左右する重要な事実が流動的な性質を持つ場合(競売手続の進行状況等)、単に一時点の状態のみを捉えて権利の成否を断ずることなく、適切に釈明権を行使して、当事者の主張立証を促す義務がある。
重要事実
上告人は被上告人に対し、金銭債権担保のために抵当権設定及び代物弁済予約(仮登記)を行った。その後、後順位抵当権者が競売を申し立て、手続が進行中であった。原審は、代物弁済予約を清算型担保契約と認定した上で、競売手続が進行している以上、債権者は優先弁済を受ければ足り、本登記を求める必要はないとして、上告人の請求を棄却した。しかし、記録上、当事者が担保契約の性質や競売手続の進行を前提とする主張を明確に行っていたかは不明確であった。
事件番号: 平成8(オ)1846 / 裁判年月日: 平成9年5月30日 / 結論: 破棄差戻
事実認定の根拠として判決に引用する文書が真正に成立したこと及びその理由は、判決書の必要的記載事項ではない。
あてはめ
本件において、抵当権実行の存否は判決の結論を左右する重要事実であるが、競売手続は弁済や和解等により取り消される可能性があり流動的である。原審は、ある一時点の進行状況のみを捉え、当事者にその法的意味を認識させて主張立証を尽くさせることなく、直ちに権利行使を否定した。これは、当事者の予期しない法的構成や事実認定を釈明なしに行ったものであり、適切な審理が行われたとはいえない。
結論
原審には釈理権行使の誤り及び審理不尽の違法がある。したがって、原判決を破棄し、さらなる審理のため本件を差し戻す。
実務上の射程
民事訴訟法における釈明権(149条)の限界と義務に関する判例である。裁判所が当事者の意図しない法的構成(本件では担保契約の性質論)を採用しようとする場合や、競売開始のような変動しやすい事実を判決の基礎とする場合には、不意打ち防止の観点から釈明義務が生じることを示す。答案では、弁論主義の修正や審理の適正を論じる際の根拠として活用できる。
事件番号: 昭和33(オ)26 / 裁判年月日: 昭和34年7月2日 / 結論: その他
【結論(判旨の要点)】売買の予約の成立を認めるためには、その前提となる事実について証拠に基づき合理的に認定する必要があり、供述内容が予約ではなく本契約の成立を指している場合には、予約の成立を認めることはできない。 第1 事案の概要:被上告人(原告)が上告人(被告)から土地200坪を単価140円で購入したと主張し、売買一…
事件番号: 昭和33(オ)962 / 裁判年月日: 昭和35年8月19日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】裁判所は、当事者が主張していない事実や法的構成について、特定の主張を促すべき釈明義務を当然に負うものではない。 第1 事案の概要:上告人は、原判決が認定した事実とは異なる事実を前提として、原裁判所が当事者に対して特定の主張を促す義務(釈明義務)を負うべきであったと主張して上告した。判決文からは具体…
事件番号: 昭和33(オ)943 / 裁判年月日: 昭和35年11月17日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】裁判上の自白の撤回は、その自白が真実に反し、かつ、錯誤に基づくものであるときは、適法に認められる。また、付随的義務の不履行を理由とする売買契約の解除は認められない。 第1 事案の概要:本件土地の売買において、履行期等に関する特約の有無が争点となった。控訴代理人は当初、特約が存在する旨の準備書面を提…
事件番号: 昭和54(オ)1166 / 裁判年月日: 昭和55年7月15日 / 結論: その他
土地所有権に基づく土地明渡請求事件において、被告が抗弁として右土地の買受けを主張するとともに、事情として右土地を買受けの時まで長期にわたり賃借していた旨陳述し、原告も賃貸の事実を認めていたなどの訴訟の経過があるにかかわらず、右の売買の無効を判断しただけで、右の陳述の趣旨を釈明せず、占有権原の存否について審理を尽くさない…