土地所有権に基づく土地明渡請求事件において、被告が抗弁として右土地の買受けを主張するとともに、事情として右土地を買受けの時まで長期にわたり賃借していた旨陳述し、原告も賃貸の事実を認めていたなどの訴訟の経過があるにかかわらず、右の売買の無効を判断しただけで、右の陳述の趣旨を釈明せず、占有権原の存否について審理を尽くさないで明渡認容の判決をしたのは、釈明権不行使及び審理不尽の違法がある。
土地の占有権原につき釈明権の不行使、審理不尽の違法があるとされた事例
民訴法127条,民訴法394条
判旨
当事者が主要事実を明確に主張していなくても、訴訟の経過からその主張が合理的に推認される場合には、裁判所は釈明権を行使して法律上の主張を明らかにさせ、審理を尽くすべき義務がある。
問題の所在(論点)
当事者が明示的に抗弁として主張していない事実(賃借権の存在)が記録上現れている場合、裁判所は釈明権を行使してこれを主張させるべきか。釈明権の行使義務の有無が問題となる。
規範
当事者が事実上の主張として、占有権原となり得る先行関係(賃借権等)を陳述しており、かつ、新たな取得原因(売買等)が無効と判断される場合に当該先行関係を占有権原として主張しない意向がないと認められるときは、裁判所は釈明権(民事訴訟法149条)を行使し、主張を明瞭にさせる義務を負う。これを怠り審理を尽くさないことは、審理不尽の違法となる。
重要事実
土地所有者である被上告人が、占有者である上告人A1に対し土地明渡しを求めた事案。A1は、被上告人の妻から本件土地を買い受けたと主張(有権代理、表見代理、追認を予備的に主張)。一方で、A1は事情として「買受時まで長期にわたり賃借していた」旨を陳述し、被上告人も賃貸の事実を認めていた。原審は、売買の成立をいずれも否定した上で、直ちに明渡しを認容した。
事件番号: 昭和24(オ)326 / 裁判年月日: 昭和25年9月15日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】他主占有から自主占有への転換が認められるためには、権原の性質上所有の意思がないものと認定される占有において、客観的にみて所有の意思があるものと解される事情が必要である。 第1 事案の概要:被上告人の先代Dは、本件不動産を「家産」として所有し、その散逸を防止するために上告人A1夫婦に管理させていた。…
あてはめ
上告人A1は売買の抗弁を主軸としていたが、従前からの賃借権についても陳述しており、被上告人もこれを認めている。売買が無効と判断された場合でも、A1が賃借権に基づく占有権原を主張しない意向であるとは考え難い。したがって、原審は訴訟関係を明瞭にするため、A1の陳述が賃借権を占有権原として主張する趣旨か釈明し、その存続について審理すべきであったといえる。これをせずに明渡しを認めた原審の判断には、釈明権の不行使および審理不尽の違法がある。
結論
釈明権不行使の違法があるため、明渡しを認めた原判決を破棄し、差し戻す。
実務上の射程
当事者が法的知識の欠如等により適切な主張を構成できていないが、記録上、勝敗を左右する重要な権利関係(占有権原等)の存在が強く推認される場面で、裁判所の積極的な釈明義務を認める際に引用する。特に、予備的・選択的主張が期待される文脈で有用である。
事件番号: 昭和55(オ)266 / 裁判年月日: 昭和56年9月24日 / 結論: 破棄差戻
甲が提起した無権代理行為を理由とする土地所有権移転登記の抹消登記手続請求訴訟の控訴審の口頭弁論の終結前に甲が死亡し、無権代理人乙が甲を相続した結果、甲がみずから法律行為をしたのと同様の法律関係を生じたが、甲について訴訟代理人が選任されていたため訴訟承継の手続がとられないまま口頭弁論が終結された場合において、相手方丙がそ…
事件番号: 昭和44(オ)431 / 裁判年月日: 昭和46年6月18日 / 結論: 破棄差戻
当事者が代物弁済予約の存在を前提に、その予約完結に基づく本登記義務の存否を争つている場合において、裁判所が審理の結果、右予約の実質は、債権担保のための清算型代物弁済予約であり、しかも、後順位抵当権が実行中であつて、右請求がそのまま認容しえないことが判明したときは、裁判所は、当事者に対し、その法律関係について釈明を求める…
事件番号: 昭和36(オ)78 / 裁判年月日: 昭和38年1月22日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】民法110条の表見代理が成立するためには、相手方が代理権があると信じ、かつ信ずるにつき正当の事由があることを具体的に主張する必要があり、単に代理権があると信じていたという事実の主張のみでは足りない。 第1 事案の概要:上告人らは、被上告人B1がB2を代理して消費貸借契約や抵当権設定、代物弁済予約を…
事件番号: 平成14(受)1008 / 裁判年月日: 平成15年6月13日 / 結論: 破棄差戻
不動産の売買等を業とする会社が,地目変更等のためと偽って不動産の所有者から交付を受けた登記済証,白紙委任状,印鑑登録証明書等を利用して,当該不動産につき同社への不実の所有権移転登記を了したが,当該所有者が,虚偽の権利の帰属を示すような外観の作出につき何ら積極的な関与をしておらず,上記の不実の登記の存在を知りながら放置し…