原告が単独で土地を賃借し地上に建物を建築したことを主張する所有権確認等請求訴訟において、被告らがこれを否認して土地を賃借し建物を建築したのは原被告らの被相続人であると主張した場合には、原告がこれを自己の利益に援用しなかったとしても、裁判所は、適切に釈明権を行使するなどした上でこの事実をしんしゃくし、相続による持分の取得を理由に原告の請求の一部を認容すべきであるかどうかについて審理判断すべきである。 (補足意見がある。)
請求の一部についての予備的請求原因となるべき事実を被告が主張した場合に原告がこれを自己の利益に援用しなくても裁判所はこの事実をしんしゃくすべきであるとされた事例
民訴法186条
判旨
被告の陳述した事実が原告の請求を一部基礎付ける場合、裁判所は、原告がその事実を援用しなくても適切に釈明権を行使し、その一部認容の可否を審理すべきである。特に、既判力により再訴が妨げられる不利益がある場合には、釈明義務の違背が認められる。
問題の所在(論点)
被告が原告の請求を一部基礎付ける事実を陳述した場合、原告がそれを援用していなくとも、裁判所は釈明権を行使して一部認容の可否を判断すべきか。また、これを怠ることは釈明義務違反(審理不尽)となるか。
規範
1. 弁論主義の下においても、裁判所は、当事者が主張しない事実を判決の基礎にできないのが原則である。しかし、相手方が自己に不利益な事実を先行して陳述した場合(権利外の主張)、裁判所はこれを訴訟資料として斟酌できる。 2. 裁判所が認定した事実が、原告の請求を分量的に一部認容し得るものである場合、原告がその事実を自ら援用していないときでも、裁判所は適切に釈明権を行使して、原告にその範囲での請求を維持する意思があるかを確認し、審理判断すべき義務を負う(釈明義務)。
重要事実
原告(上告人)は、自らが土地を賃借し建物を建築したと主張して、建物所有権等の確認を求めた。これに対し被告(被上告人ら)は、当該権利を取得したのは原告の亡父であり、原告はその相続人の一人にすぎない旨を主張して争った。原審は、被告の主張通り亡父の取得を認めたが、原告が相続による取得を自ら主張(援用)していないことを理由に、原告の相続分(9分の1)に相当する一部認容の可能性を検討せず、直ちに請求をすべて棄却した。
あてはめ
1. 被告が主張した「亡父の取得・死亡」という事実は、原告の法定相続分(9分の1)の限度で請求を理由あらしめるものである。裁判所がこの事実を確定した以上、原告が自己の利益に援用しなくても、釈明権を行使してその一部認容について審理すべきであった。 2. 特に本件では、全部棄却判決が確定すれば既判力により原告は後日「相続」を理由とする再訴ができなくなるという重大な不利益を被る。原告は反論の中で遺産分割未了の可能性に触れており、相続による権利帰属を念頭に置いていたといえるから、釈明の必要性は高い。これを行わずに請求を棄却した原審には、審理不尽の違法がある。
結論
原審が適切に釈明権を行使せず、相続分の限度での一部認容の可否を検討しなかったのは審理不尽であり、違法である。原判決のうち持分9分の1を超える部分(一部認容すべき余地のある部分)を破棄し、差し戻す。
実務上の射程
訴訟物自体は同一(所有権等)であっても、取得原因事実が異なる(固有の取得vs相続)場合に、一部認容を検討するための釈明義務を認めたもの。実務上は「一部認容」と「既判力による遮断の回避」の観点から、弁論主義を補完する釈明権の行使(義務)を肯定する根拠として活用できる。
事件番号: 昭和27(オ)332 / 裁判年月日: 昭和29年6月8日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】裁判所が当事者本人の供述を証拠として事実認定を行うことは自由心証主義の範疇であり、当事者が他に立証はないと陳述した場合には、裁判所は立証を促す釈明義務を負わない。 第1 事案の概要:上告人は、原審(控訴審)において、他に主張や立証はない旨を陳述した。これに対し、裁判所は事件が判決を下すのに適した状…
事件番号: 昭和44(オ)431 / 裁判年月日: 昭和46年6月18日 / 結論: 破棄差戻
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事件番号: 昭和35(オ)172 / 裁判年月日: 昭和36年6月22日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】不動産の単独所有権を前提として登記抹消を請求する場合、裁判所は当事者の主張しない共有持分権に基づく請求について審理判断すべきではなく、釈明義務も負わない。 第1 事案の概要:上告人は、対象不動産について自己が単独所有権を有することを前提として、登記の抹消を求めて提訴した。原審は、上告人に単独所有権…
事件番号: 平成8(オ)1846 / 裁判年月日: 平成9年5月30日 / 結論: 破棄差戻
事実認定の根拠として判決に引用する文書が真正に成立したこと及びその理由は、判決書の必要的記載事項ではない。