判旨
農地買収の申出は農地委員会の積極的行為ではないため委員会の決議を要さず、会長は委員会の代表者として当然にこれを受理する権限を有する。したがって、会長の斡旋による調停の成立があれば、その調停が会長の個人的行為や法令違反を含むものであっても、適法な買収申出があったと認められる。
問題の所在(論点)
農地買収の申出を受理するにあたり、農地委員会の決議を要するか。また、会長が個人的に行った調停手続の過程でなされた申出について、適法な買収申出があったと認められるか。
規範
自作農創設特別措置法3条5項7号に基づく買収申出の受理は、農地委員会の積極的な意思決定を伴う行為ではない。そのため、受理にあたって農地委員会の決議は不要であり、委員会の代表者である会長は、当然に申出を受理する権限を有する。また、申出の存否は、その端緒となった調停手続の適否(農地調整法所定の手続の成否や調停内容の適法性)とは別個に判断される。
重要事実
上告人は、自創法に基づく農地買収の申出を行った事実はないと主張した。具体的には、本件で行われた和解調停は農地調整法所定の手続に則っておらず、農地委員会も会長に紛争解決を斡旋させる決議を行っていないため、会長の個人的行為に過ぎないと主張。会長が調停書に署名捺印していても、適法な「買収申出」は存在しないとして争った。
あてはめ
買収申出の受理は農地委員会の積極的行為ではないため、委員会の決議を欠いていても会長が代表者として受理すれば足りる。本件において会長は、委員会の代表者として調停の場に立ち会い、調停書に署名捺印している。この調停の内容に仮に法令違反があったとしても、あるいは農地調整法上の適法な調停手続としての不備があったとしても、それらは「買収申出」の受理という事実とは別個に考えるべき事柄である。したがって、会長が申出を認識し受理した以上、適法な買収申出があったものと評価される。
結論
適法な買収申出があったものと認められる。会長は会の代表者として当然に申出を受理する権限を有するため、調停手続の適否にかかわらず、申出の事実は肯定される。
事件番号: 昭和32(オ)1158 / 裁判年月日: 昭和36年4月21日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】行政処分に法令の定める除外事由に該当する土地を買収したという違法があっても、直ちに当然無効となるわけではなく、その瑕疵が重大かつ明白である場合に限り無効となる。 第1 事案の概要:本件土地は、客観的には旧自創法5条5号に該当し、本来であれば買収から除外されるべき土地であった。しかし、処分庁は同号の…
実務上の射程
行政庁(委員会)の代表者が持つ権限の範囲と、内部的な意思決定手続(決議)の要否に関する射程を持つ。受動的な受理行為については、明文の規定がない限り代表者の権限で足りるとするロジックは、他の行政手続にも応用可能である。また、手続的外形(調停)に瑕疵があっても、その過程でなされた実体的申出の効力は独立して判断される点に注意が必要である。
事件番号: 昭和30(オ)292 / 裁判年月日: 昭和32年4月19日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】農地の買収処分が無効であったとしても、その後に当該土地を贈与された者が農地法上の許可を得ていない場合、所有権を取得し得ないため、買収処分の無効確認及び登記抹消等を求める訴えの利益(当事者適格)を欠く。 第1 事案の概要:福島県知事は、自作農創設特別措置法に基づき、本件土地を補助参加人の所有地として…
事件番号: 昭和30(オ)331 / 裁判年月日: 昭和32年12月6日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】農地買収計画の無効確認を求める訴訟において、当該農地の所有権を有しない者は、行政処分の違法を主張してその無効確認を求める法律上の利益を有しない。 第1 事案の概要:上告人は、農地委員会が行った本件農地三筆の買収計画が違法であるとして、その無効確認を求めて提訴した。しかし、事実認定によれば、上告人と…
事件番号: 昭和40(行ツ)111 / 裁判年月日: 昭和42年3月31日 / 結論: 破棄差戻
農地の買収処分無効確認の訴と所有権移転登記抹消登記手続請求の訴との併合訴訟において、前者の訴につき、第一審が取得時効の完成を認めて訴を不適法として却下したのに対し、原審が時効の完成を否定し第一審判決を取り消して、請求を認容したのは、民訴法第三八八条の必要的差戻しの規定に違背するものというべきであるが、後者の訴についての…
事件番号: 昭和31(オ)478 / 裁判年月日: 昭和32年11月28日 / 結論: 破棄差戻
【結論(判旨の要点)】農地開放の申請に基づく農地買収処分において、真実の申請者ではない登記簿上の名義人を対象としてなされた買収計画及びそれに基づく買収令書の発行は、原則として法律上当然に無効である。 第1 事案の概要:上告人(子)は、先代D(父)の隠居に伴う家督相続により本件土地の所有権を取得したが、相続登記は未了であ…