農地の買収処分無効確認の訴と所有権移転登記抹消登記手続請求の訴との併合訴訟において、前者の訴につき、第一審が取得時効の完成を認めて訴を不適法として却下したのに対し、原審が時効の完成を否定し第一審判決を取り消して、請求を認容したのは、民訴法第三八八条の必要的差戻しの規定に違背するものというべきであるが、後者の訴についての原審の判断にも、審理不尽、理由不備の違法があり、差戻しを受けた原審としては、従来の判例に従うかぎり、後者の訴の再審理の結果、前者の訴については、本案の判断をする必要がなく、第一審判決を支持すべき場合もありうるときは、上告審は、同条の規定にかかわらず、前者の訴に関する事件を第一審裁判所でなく原審裁判所に差し戻すのが相当である。
原判決に必要的差戻しの規定違背の違法があるにかかわらず事件を第一審裁判所でなく原審裁判所に差し戻した事例
民訴法388条,民訴法407条
判旨
行政処分が当然無効であっても、その処分に基づき売渡しを受けた占有者は、特段の事情がない限り、占有開始時に善意・無過失であったと推認される。また、本案判断を行わず訴えを退けた第一審判決を取り消す場合、控訴審は原則として事件を第一審に差し戻さなければならない。
問題の所在(論点)
1. 当然無効な行政処分に基づいて占有を開始した者に、民法162条2項の「無過失」が認められるか。 2. 第一審が本案判断をせずに請求を棄却した場合、控訴審は自ら本案判決を行うことができるか(審級の利益の成否)。
規範
1. 民法162条2項の「無過失」の判定において、行政処分(農地買収処分)に基づき売渡しを受け耕作を開始した者は、たとえ当該処分が当然無効であっても、特段の事情のない限り、占有の開始について善意かつ無過失であったと解するのが相当である。 2. 第一審判決が本案について判断せず、訴えの利益がないとして請求を棄却(実質的に却下)した場合、民事訴訟法388条(現308条1項)の「訴えを不適法として却下した」判決にあたると解すべきであり、これを取り消す際は原則として差し戻しを要する。
事件番号: 昭和42(行ツ)79 / 裁判年月日: 昭和45年2月17日 / 結論: 棄却
民法一八五条にいう「新権原」の発生を主張するについて、占有者は、その取得につき登記その他の対抗要件を必要としない。 (参考) 一審、札幌地裁昭和三五年(行)第七号、同年(ワ)第三〇八号 昭和四〇年九月二四日判決(訟務月報一二巻二号二六七頁)
重要事実
被上告人が、国による農地買収処分が無効であると主張し、国に対しては買収処分無効確認を、買収農地の売渡しを受けた上告人Aに対しては所有権移転登記抹消を求めた事案。第一審は、国に対する請求を訴えの利益がないとして棄却し、本案判断を行わなかった。原審(控訴審)は、買収令書の未交付を理由に処分を当然無効と判断。Aについては、処分が無効である以上、占有開始時に無過失とはいえないとして取得時効の抗弁を排斥し、被上告人の請求を認容した。これに対しA及び国が上告した。
あてはめ
1. 農地の売渡しを受けた占有者は、公権的な処分を信頼して占有を開始したものであるから、その基礎となる処分が無効であっても、直ちに過失があるとはいえない。原審が「処分が無効であること」のみを理由に無過失を否定し、時効中断等の再抗弁を審理せずに抗弁を排斥した点は、民法162条2項の解釈を誤ったものである。 2. 第一審は「訴えの利益」という訴訟要件の欠如を理由に請求を退けており、実質的には不適法却下と同視できる。事実審理に関する審級の利益を保障する民訴法の趣旨に照らせば、控訴審が直ちに本案判断を行うことは許されず、原則として差し戻すべきである。
結論
原判決を破棄し、事件を東京高等裁判所に差し戻す。Aの取得時効が成立すれば、国に対する無効確認の訴えの利益も失われる可能性があるため、併せて審理を尽くすべきである。
実務上の射程
行政処分の公定力や信頼保護を背景に、短期取得時効の無過失要件を緩やかに解釈する実務を確立した。答案上は、時効の成否が行政処分の効力に依存する場合の処理や、訴訟法上の差し戻し要件(審級の利益)の論述において参照すべき重要判例である。
事件番号: 昭和30(オ)292 / 裁判年月日: 昭和32年4月19日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】農地の買収処分が無効であったとしても、その後に当該土地を贈与された者が農地法上の許可を得ていない場合、所有権を取得し得ないため、買収処分の無効確認及び登記抹消等を求める訴えの利益(当事者適格)を欠く。 第1 事案の概要:福島県知事は、自作農創設特別措置法に基づき、本件土地を補助参加人の所有地として…
事件番号: 昭和37(オ)1403 / 裁判年月日: 昭和39年10月20日 / 結論: 破棄自判
自作農創設特別措置法により買収農地の売渡を受けた者が当該農地の所有権を時効取得したときは、右農地の被買収者は、その買収処分の無効確認を求める訴の利益を有しない。
事件番号: 昭和41(行ツ)41 / 裁判年月日: 昭和43年5月28日 / 結論: 破棄差戻
耕地整理の施行により大略一反歩ずつに整然と区画されて後、都市計画法による都市計画区域に編入された土地を対象とする農地買収処分の無効確認訴訟において、旧所有者である原告から、右土地が大都市近郊の住宅地として開発され、戦前すでに風致地区に指定された旨の主張があり、また判示のように、右土地の耕作が必ずしも正当な権原に基づくも…
事件番号: 昭和27(オ)1132 / 裁判年月日: 昭和32年9月19日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】農地の買収処分において、登記簿上の名義人を所有者としてなされた処分は、異議申立や出訴期間内に行われた争訟によって是正されない限り、直ちに当然無効とはならない。 第1 事案の概要:政府が自作農創設特別措置法に基づき農地の買収処分を行った際、真実の所有者ではなく登記簿上の名義人を相手方として買収計画お…