自作農創設特別措置法により買収農地の売渡を受けた者が当該農地の所有権を時効取得したときは、右農地の被買収者は、その買収処分の無効確認を求める訴の利益を有しない。
買収農地の売渡を受けた者が当該農地の所有権を時効取得したときと被買収者が右農地の買収処分の無効確認を求める訴の利益の有無。
自作農創設特別措置法3条1項,自作農創設特別措置法16条,民法162条,民訴法225条
判旨
行政処分の無効確認の訴えにおいて、処分により侵害されたとされる原告の権利が既に失われ、処分の無効を求めても地位の不安を排除することが不可能または無意味となった場合には、訴えの利益が失われる。
問題の所在(論点)
農地買収処分の無効を争っている最中に、売渡先である第三者が当該土地を時効取得した場合、買収処分の無効確認を求める訴えの利益(行政事件訴訟法36条参照)は失われるか。
規範
行政処分の無効確認の訴えは、処分の効力がないことを明らかにして原告の地位の不安・危険を解消することを目的とする。したがって、かかる不安・危険の排除が不可能または無意味となる事態が生じたときは、訴えの利益は認められない。農地買収処分の無効確認においても、原告が農地の所有権を完全に喪失し、その回復がもはや不能な状態に至った場合には、もはや訴えの利益は消滅する。
重要事実
国(上告人)が農地買収処分を行い、その農地を第三者Fに売り渡した。元所有者(被上告人)は、買収処分の無効を主張して無効確認訴訟を提起した。しかし、併合審理された民事訴訟において、買収・売渡処分がたとえ無効であったとしても、第三者Fが当該農地を長年占有したことにより、時効によって所有権を取得したことが認められた。
事件番号: 昭和42(行ツ)79 / 裁判年月日: 昭和45年2月17日 / 結論: 棄却
民法一八五条にいう「新権原」の発生を主張するについて、占有者は、その取得につき登記その他の対抗要件を必要としない。 (参考) 一審、札幌地裁昭和三五年(行)第七号、同年(ワ)第三〇八号 昭和四〇年九月二四日判決(訟務月報一二巻二号二六七頁)
あてはめ
被上告人は農地所有権の享有に関する不安・危険を排除するために本件訴訟を提起したが、売渡先であるFが所有権を時効取得した以上、被上告人は確定的に所有権を喪失している。たとえ買収処分の無効確認判決を得たとしても、Fの時効取得という事実は動かせず、被上告人の所有権回復は客観的に不能である。したがって、買収処分の無効を明確にすることによって地位の不安を解消することは、被上告人にとって不用かつ無意味なものといえる。
結論
本件農地買収処分の無効確認を求める訴えは、訴えの利益を欠くため、却下を免れない。
実務上の射程
無効確認訴訟における「訴えの利益」の存否を判断する重要な準則である。処分の効力とは無関係な私法上の変動(時効取得等)により権利回復が完全に遮断された場合、公法上の争いを継続する実益が否定されることを示した。答案上は、行訴法36条の「法律上の利益を有する者」の解釈、特に『地位の不安』の解消可能性を論じる際に活用すべき判例である。
事件番号: 昭和40(行ツ)111 / 裁判年月日: 昭和42年3月31日 / 結論: 破棄差戻
農地の買収処分無効確認の訴と所有権移転登記抹消登記手続請求の訴との併合訴訟において、前者の訴につき、第一審が取得時効の完成を認めて訴を不適法として却下したのに対し、原審が時効の完成を否定し第一審判決を取り消して、請求を認容したのは、民訴法第三八八条の必要的差戻しの規定に違背するものというべきであるが、後者の訴についての…
事件番号: 昭和38(オ)533 / 裁判年月日: 昭和39年10月23日 / 結論: 棄却
登記簿上の所有名義人が長年農地を所有していた場合において、その農地を第三者の所有と誤認してなされた買収処分は、たとえ、その第三者が右所有者の女婿であり、世帯主であつたとしても、これを無効と解すべきである。
事件番号: 昭和30(オ)292 / 裁判年月日: 昭和32年4月19日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】農地の買収処分が無効であったとしても、その後に当該土地を贈与された者が農地法上の許可を得ていない場合、所有権を取得し得ないため、買収処分の無効確認及び登記抹消等を求める訴えの利益(当事者適格)を欠く。 第1 事案の概要:福島県知事は、自作農創設特別措置法に基づき、本件土地を補助参加人の所有地として…
事件番号: 昭和44(行ツ)39 / 裁判年月日: 昭和47年3月30日 / 結論: 棄却
農地法八〇条に基づき農地の被買収者が買収農地の売払いを求める訴訟においては、国を被告とすべきである。