農地法八〇条に基づき農地の被買収者が買収農地の売払いを求める訴訟においては、国を被告とすべきである。
農地法八〇条に基づき買収農地の売払いを求める訴訟の被告
農地法80条
判旨
農地の旧所有者が農地法36条に基づく第三者への売渡処分の取消しや無効確認を求めるためには、単に旧所有者であるだけでは足りず、当該農地を自作農創設等の目的に供しないことを相当とする事実が生じ、旧所有者に私法上の売払請求権が発生している場合に限られる。
問題の所在(論点)
国に買収された農地の旧所有者は、その農地が第三者へ売り渡された場合に、当該売渡処分の無効確認を求める「法律上の利益」(行政事件訴訟法36条、9条1項)を有するか。旧所有者という属性のみで原告適格が認められるかが問われた。
規範
行政事件訴訟法9条1項の「法律上の利益」の有無、すなわち原告適格は、当該処分が取り消された場合に、法律上国から当該土地を売り渡されなければならない地位(私法上の権利としての売払請求権)を認めるべき要件事実が存するか否かによって決すべきである。単に「買収前の旧所有者」であるという一般的可能性だけでは、法律上の利益を有すると解することはできない。
重要事実
被上告人(旧所有者)は、昭和23年に国に買収された農地につき、農地法80条1項所定の自作農創設等の目的に供しないことを相当とする事実が生じたと主張した。しかし、知事は昭和38年に当該農地を第三者(別件上告人)に売り渡したため、旧所有者はこの第三者への売渡処分の無効確認を求めて出訴した。
事件番号: 昭和36(オ)4 / 裁判年月日: 昭和37年7月17日 / 結論: 棄却
農地の売渡の相手方を誤つた違法があつても、売渡処分を当然無効とはいえない。
あてはめ
旧所有者は、農地を自作農創設等の目的に供しないことを相当とする事実が生じた場合には、農林大臣に対し直接売払いを求める私法上の権利を有する(農地法80条1項)。本件において、被上告人は当該事実が生じているにもかかわらず第三者に売渡処分がなされたと主張している。したがって、事実審裁判所は、この私法上の権利を発生させるための要件事実が存するか否かを審究すべきであり、これによって原告適格の有無を判断すべきである。第一審が主張自体不適法として門前払いしたことは、この審究を怠った点で違法である。
結論
旧所有者が私法上の売払請求権を発生させるための要件を満たしている場合には、第三者への売渡処分の無効確認を求める法律上の利益(原告適格)を有する。本件ではその有無を審理させるため、第一審へ差し戻した原判決の結論を維持する。
実務上の射程
本判決は、取消訴訟・無効確認訴訟における「法律上の利益」の判断基準として、処分が取り消されることで回復される具体的な法的地位(本件では私法上の権利発生の蓋然性)を要求する実務的指針を示している。答案上は、単なる事実上の期待や可能性では足りず、実体法上の権利関係に基づいた具体的な不利益の存否を検討する際の根拠として活用できる。
事件番号: 昭和38(オ)814 / 裁判年月日: 昭和40年8月31日 / 結論: その他
一旦有資格者に売り渡された農地を他の農地等との交換の目的を実現させるため重ねて第三者に売り渡すがごときことはたとえそれがさきに売渡を受けた者の意思に反しない場合においても、法律上許されないものといわなければならない。
事件番号: 昭和50(行ツ)23 / 裁判年月日: 昭和50年6月27日 / 結論: 棄却
農地法八〇条に基づき農地の売払いを受けられる場合には、当該農地の旧所有者は、行政事件訴訟法三六条により、当該農地の売渡処分の無効確認を求める原告適格を有しない。
事件番号: 昭和37(オ)1403 / 裁判年月日: 昭和39年10月20日 / 結論: 破棄自判
自作農創設特別措置法により買収農地の売渡を受けた者が当該農地の所有権を時効取得したときは、右農地の被買収者は、その買収処分の無効確認を求める訴の利益を有しない。
事件番号: 昭和42(行ツ)79 / 裁判年月日: 昭和45年2月17日 / 結論: 棄却
民法一八五条にいう「新権原」の発生を主張するについて、占有者は、その取得につき登記その他の対抗要件を必要としない。 (参考) 一審、札幌地裁昭和三五年(行)第七号、同年(ワ)第三〇八号 昭和四〇年九月二四日判決(訟務月報一二巻二号二六七頁)