判旨
返還時期および使用収益の目的を定めなかった使用貸借契約において、貸主はいつでも返還を請求できるとする民法597条3項(現行法598条2項)の解釈を示した。
問題の所在(論点)
返還時期および使用収益の目的の定めがない使用貸借において、貸主はどのタイミングで返還請求(解約申入れ)をすることができるか。特に、借主の死亡後の居住継続において、旧民法597条(現行法598条)の適用関係が問題となった。
規範
使用貸借において、当事者が返還の時期を定めず、かつ、使用及び収益の目的を定めなかった場合には、貸主は、いつでも返還を請求することができる(旧民法597条3項、現行法598条2項参照)。
重要事実
上告人の亡夫Dが戦時中に住居に困っていた際、被上告人の先代がその窮状を察して本件建物を無償で使用させた。その後、Dが死亡し、上告人一家が居住を継続していたところ、昭和28年8月26日に被上告人が上告人に対して建物の明渡しを求めた。原審は、当該占有の根拠を使用貸借と認定した上で、返還時期等の定めのないものとして貸主の明渡請求を認めた。
あてはめ
本件の使用貸借は、戦時の困窮という一時的な事情を背景に開始されたものである。亡夫Dの死亡後、上告人が居住を継続していた状態においては、もはや返還時期の定めはなく、かつ具体的な使用収益の目的(「特定の目的」の完了等)も存しないものと認められる。したがって、貸主はいつでも返還を請求し、契約を終了させることができる状態にあると評価される。被上告人による明渡しの申入れは、この解約権の行使として有効である。
結論
本件使用貸借は、返還時期および使用収益の目的の定めがないものに該当し、貸主による明渡しの申入れによって終了する。したがって、上告人は建物を明け渡さなければならない。
実務上の射程
使用貸借の終了時期を巡る基本判例である。現行法598条2項の「期間及び目的を定めなかったとき」に該当する場合、貸主の解約の自由を認める。答案上は、好意的な動機で始まった無償の占有について、目的が達せられたか否かを検討する際の前提として、本条項の解釈を明示するために用いる。
事件番号: 昭和28(オ)797 / 裁判年月日: 昭和30年5月13日 / 結論: 棄却
原判決認定の事実(第二審判定理由参照)に基く社宅の使用関係については、借家法の適用はないと解すべきである。