建物の使用貸借契約が、所有家屋の焼失により住居に窮した借主が適当な家屋を見付けるまでの間一時的に住居として使用収益することを目的として結ばれたものであるときは、契約成立後六年余を経過した後になされた解約告知は、現実に適当な家屋が見付かつたか否かに関係なく、有効である。
一時的住居として使用収益することを目的として結ばれた建物使用貸借契約の解約告知。
判旨
使用貸借において、返還時期の定めはないが「他に適当な家屋に移るまで」という目的が定められている場合、その目的達成に必要な期間が経過すれば、現実に移転先が見付かる前でも貸主は解約を告知できる。
問題の所在(論点)
「他に適当な家屋に移るまで」という使用収益の目的が定められた使用貸借において、現実に対当な家屋が見付かっていない場合であっても、民法597条2項但書による解約告知が認められるか。
規範
返還時期の定めがない使用貸借において、特定の目的(民法597条2項)が定められている場合、当事者の意思解釈に基づき、その目的を達するのに足りる期間(同項但書)が経過したときは、貸主は返還の請求をすることができる。この期間の経過は、目的とした事実が現実化する前であっても、客観的に見て達成に必要な期間が過ぎていれば認められる。
重要事実
上告人は、所有家屋の焼失により住宅に困窮し、被上告人から「他に適当な家屋に移るまで暫くの間」住居として使用するため、建物を無償で借り受けた(昭和20年10月頃)。その後、被上告人は昭和27年3月頃、借主が未だ移転先を見つけていない状態で返還の告知を行った。
あてはめ
本件の使用目的は、当事者の意思解釈上「適当な家屋を見付けるまでの一時的住居」と認められる。使用貸借の開始から解約告知まで約6年5ヶ月が経過しており、この期間は「適当な家屋を見付けるために必要な期間」として十分である。したがって、現実に見付かる以前であっても、同条項但書の期間経過が認められ、告知は有効となる。
結論
適当な家屋を見付けるに必要な期間を十分に経過した場合には、民法597条2項但書により貸主は返還を請求できるため、本件告知は有効である。
実務上の射程
使用貸借の終了時期に関するリーディングケースである。特に「目的達成に必要な期間」の判断において、借主側の主観的事由(現実に見つかったか等)だけでなく、経過期間という客観的事実を重視する実務上の指針となる。答案上は、597条2項の「目的」の解釈と「期間」のあてはめで用いる。
事件番号: 昭和38(オ)786 / 裁判年月日: 昭和39年4月23日 / 結論: 棄却
原判示認定の事実関係のもとにおいては、本件建物の使用収益の目的を達するに十分の期間を経過したものと認めるのが相当である。