判旨
本人が無権代理人に対して代理権を授与した事実はなく、かつ、無権代理人が本人の駐勤所等の肩書を付した名刺を使用することを承諾した等の事情も認められない場合には、表見代理は成立せず、本人は売買契約の責任を負わない。
問題の所在(論点)
本人が無権代理人による代理権の僭称や特定の肩書の使用を承諾していない場合、当該無権代理行為について本人は責任を負うか(表見代理の成否)。
規範
民法109条等の表見代理が成立するためには、本人が無権代理人に対して代理権を与えた旨を表示したこと、または他人が自己の名義を用いて法律行為を行うことを許諾したという「帰責性」が本人側に認められる必要がある。本人が代理権の授与も使者としての権限付与も行わず、かつ、他人が特定の肩書を付した名刺を使用すること等についても承諾を与えていない場合には、特段の事情のない限り、本人の表示行為や帰責性を基礎づける事実は認められない。
重要事実
上告人(買主)とDとの間で木材の売買契約が締結されたが、Dは被上告会社(本人)の代理人であると僭称していた。Dは被上告会社の「E駐勤所」との肩書を付した名刺を使用していた。しかし、被上告会社はDに代理権や使者としての権限を授与した事実はなかった。また、被上告会社はDが当該肩書の名刺を使用することについても承諾を与えておらず、甲第3号証(証拠資料)も代理権授与を表示する趣旨ではなかった。
あてはめ
本件では、被上告会社がDに対し、木材の売買に関する代理権を授与した事実はなく、使者としての権限も与えていない。また、Dが「E駐勤所」という肩書の名刺を使用していた点についても、被上告会社による承諾は認められない。さらに、甲第3号証の内容も代理権授与を表示したものとは解されない。以上によれば、Dの行為は単なる代理人の僭称に過ぎず、被上告会社に帰責すべき事由は認められないため、表見代理の成立要件である「表示」や「許諾」を欠くといえる。
結論
被上告会社は本件売買契約について責任を負わない。したがって、上告を棄却する。
実務上の射程
本判決は、表見代理(特に109条)の成否において、本人による「承諾」や「表示」という帰責性の有無が決定的な判断要素となることを示している。答案作成上は、名刺の使用や肩書の利用がある場合でも、それが本人の明示的・黙示的な許諾に基づくものか、あるいは単なる僭称(冒用)に過ぎないかを事実認定のレベルで峻別する際の根拠として活用できる。
事件番号: 昭和34(オ)867 / 裁判年月日: 昭和36年9月19日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】名義貸人の責任(旧商法23条、現行商法14条)が認められるためには、名義貸人が自己の氏名または商号の使用を許諾または黙認した事実が必要であり、その事実が認められない場合には責任を負わない。 第1 事案の概要:上告人は、訴外Dが土木建築請負業を営むにあたり、被上告人の商号である「E」を使用していたこ…