判旨
不動産登記の登記原因が事実と符合しなくとも、その登記が現在の実体的権利関係に合致している限り、当該登記は有効である。
問題の所在(論点)
不動産登記の登記原因が実際の権利変動の経緯と符合しない場合において、当該登記が有効といえるか。また、実体的権利関係に合致しているといえるための要件が問題となる。
規範
登記の有効性は、登記原因の正確性(過程の合致)よりも、現在の実体的な権利状態を反映しているか(結果の合致)によって判断される。したがって、登記原因が事実に反していても、その時点で実体上の権利者が登記名義人と一致している場合には、当該登記は有効と解すべきである。
重要事実
上告人は訴外Dから本件宅地を買い戻して所有権を取得した後、訴外Eに対してこれを贈与した。本件宅地についてはEへの所有権移転登記がなされていたが、その登記原因は実際の「贈与」とは異なるものであった(判決文からは具体的な記載原因は不明だが「売買」等の事実と異なる原因であったと推察される)。上告人は、登記原因が事実に符合しないこと等を理由に、当該登記の効力を争った。
あてはめ
本件において、上告人からEへの贈与の意思表示がなされ、実際に贈与の事実があったことが認められる。そうであれば、本件宅地の実体的な権利者はEである。E名義の所有権移転登記は、たとえ登記原因が事実に符合していなかったとしても、当時の実体的な権利関係(Eが所有者であること)と合致しているといえる。また、民法550条による贈与の取消しが主張されていない以上、書面の有無や履行の完了は登記の有効性に影響しない。
結論
登記原因が事実と異なっていても、実体的権利関係に合致する以上、当該登記は有効である。したがって、上告人の請求は認められない。
実務上の射程
実体関係に合致する「中間省略登記」や「真正な登記名義の回復」などの登記の有効性を肯定する際の基礎となる判例である。答案上は、登記原因の瑕疵が登記の無効を直ちに導くものではなく、実体権利の帰属が重要である旨を述べる際に引用する。
事件番号: 昭和31(オ)845 / 裁判年月日: 昭和32年7月18日 / 結論: 棄却
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事件番号: 昭和30(オ)419 / 裁判年月日: 昭和32年11月1日 / 結論: 棄却
一 自作農創設特別措置法第二条第二項にいう「耕作の業務を営む者」とは、耕作経営の主体を指すものであつて、その耕作の規模が零細であることまたは農業以外に兼業を有することを妨げない。 二 買収令書に、買収目的地の表示として、一筆の土地の一部を単に地積を表示して掲げているに過ぎない場合においても、買収手続当時の事情の下で、一…
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