判旨
特許権侵害の成否が争われる事案において、先使用による実施の事実は、過去の特許出願の内容と実施態様の実質的同一性や本人尋問の結果に基づき認定することができ、他方で出願の拒絶査定や特許発明に不要な薬品の存在といった事実は必ずしも当該認定を妨げない。
問題の所在(論点)
特許法上の先使用権(現行法79条)の基礎となる「発明の実施」の事実認定において、過去の特許出願内容との同一性や、現場の薬品の存在、出願の拒絶査定といった各事情をどのように評価すべきか。
規範
先使用による実施事実の存否は、過去の特許出願の内容と当該実施態様の比較、および関係者の供述等に基づき総合的に判断すべきである。また、実施現場に特定の薬品が存在していたことや、関連する特許出願が拒絶査定を受けたといった外形的・手続的事実があったとしても、それらのみをもって直ちに特定の製造方法の実施が否定されるものではない。
重要事実
上告人(特許権者)は、被上告人が自らの特許発明(特許第157199号)を侵害したと主張。これに対し被上告人は、所定の製造方法((イ)号記載の方法)により擬革製造を以前から行っていたとして先使用権等を主張した。原審は、被上告人が昭和18年に行った特許出願の内容と(イ)号記載の方法が実質的に同一であること、および本人尋問の結果から、被上告人の実施事実を認めた。これに対し上告人は、現場に別の薬品(過マンガン酸加里曹達等)が存在したことや、被上告人の出願が拒絶査定されたことを根拠に、実施事実に係る認定の不当を訴え上告した。
あてはめ
まず、被上告人が過去に行った特許出願の内容と(イ)号の方法が実質的に同一であるという事実は、被上告人が当該技術を把握し実施していたことを推認させる有力な証拠となる。次に、仮処分執行当時に上告人の発明に必要で(イ)号の方法には不要な薬品が現場に存在していたとしても、それは直ちに(イ)号の方法の実施を否定するものではなく、経験則に反するとはいえない。さらに、被上告人の特許出願が拒絶査定を受けた事実は、特許要件の欠如等を示すに過ぎず、その実施態様が上告人の特許権の範囲に属するか否かや実施の有無を左右するものではない。
結論
被上告人が(イ)号記載の方法を実施してきたという原審の事実認定に違法はなく、上告を棄却する。
実務上の射程
本判決は事実認定の適法性を判断したものであるが、特許訴訟における先使用権の主張において、過去の自社出願の内容が実施事実の有力な裏付けとなること、および現場の余分な薬品の存在や拒絶査定といった事情が必ずしも反証として機能しないことを示しており、事実認定の枠組みとして実務上参考となる。
事件番号: 昭和37(オ)560 / 裁判年月日: 昭和38年10月3日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】当業者が容易に実施できる考案は新規性を欠き、旧実用新案法3条2号に該当するものとして登録を受けることができない。 第1 事案の概要:上告人は自身の考案について実用新案登録を受けていたが、当該登録実用新案について、旧実用新案法3条2号(公然知られたもの等)に該当するか否かが争われた。原審は、当該考案…