判旨
判決の基礎となる重要な証拠資料と、判決が付した図形が明らかに異なり、真の商標との類似性を判断していない場合には、理由不備の違法がある。
問題の所在(論点)
商標の類似性判断において、原審が真実の引用登録商標とは異なる図形を比較対象としたことが、理由不備(旧民訴法395条1項6号、現行312条2項6号)に該当するか。
規範
判決において、当事者が主張・立証した証拠対象と異なる図形を基礎として判断を下し、真に審理すべき対象についての判断を欠く場合には、民事訴訟法上の「判決に理由を附さない」違法(理由不備)に該当する。
重要事実
上告人の出願商標と、引用登録商標(第290580号)の類似性が争われた事案。原審は、判決書別紙下段に「引用登録商標」とする図形を掲載し、出願商標と比較して称呼・観念が類似しないと判断した。しかし、記録上の乙1号証(争いのない登録商標の写し)と原審が掲載した図形は全く別異の外観を持つものであった。
あてはめ
原審が引用登録商標であるとして掲載した図形は、乙1号証に示された真実の商標と「似て非なる」ものであり、その図形を基礎とした根拠も不明確である。原審は、この別異の図形と出願商標を比較して非類似と判断するにとどまっており、本来審理すべき「出願商標と真実の引用登録商標」との間の類似性について判断を導き出していない。これは、判断の前提となる事実認定と証拠の間に看過し得ない齟齬がある状態であり、法的判断の根拠を欠いているといえる。
結論
原判決には理由不備の違法があるため、原判決を破棄し、本件を原審(東京高等裁判所)に差し戻す。
実務上の射程
知財訴訟における事実誤認が理由不備に至る限界を示す。証拠と判決の基礎事実に客観的な齟齬がある場合、単なる事実認定の不当にとどまらず、法的な「理由の欠如」として上告理由になり得ることを示唆する。
事件番号: 昭和34(オ)856 / 裁判年月日: 昭和36年6月23日 / 結論: 棄却
一の商標から二つの称呼を生ずるものと認定しても差支えない。