判旨
不動産の譲受人が譲渡人に対し「借金を返せば戻してやる」と述べ、譲渡人も「将来取り戻せばよい」と考えていたとしても、それが直ちに法律上の効果を生じさせる合意(契約の内容)になるとは限らない。
問題の所在(論点)
不動産譲渡に際してなされた「借金を返せば戻してやる」という言動や、当事者の「取り戻せばよい」という認識が、再売買の予約や買戻しの特約といった法律上の効果を生じさせる契約の内容となるか。
規範
当事者間に一定の言動や主観的意図が存在したとしても、それが直ちに法的拘束力を有する意思表示となるわけではない。契約の内容として認められるためには、単なる事実上の意図や動機を超え、当事者間において「法律上の効果を生ぜしむべき意思」が表示されていることを要する。
重要事実
上告人と被上告人Bとの間で本件不動産譲渡契約が締結された際、被上告人Bは上告人に対し「借金を返せば戻してやる」と言い、上告人も「将来取り戻せばよい」と考えていた。しかし、原審はこれらが契約の内容(合意)には至らなかったと認定した。上告人はこの判断を不服として上告した。
あてはめ
被上告人の言動や上告人の内心の認識は、その当時の当事者間の関係や状況に鑑みれば、未だそのような法律上の効果(再売買の義務付け等)を生じさせるべき確定的な意思を表示したものとは解し難い。したがって、これらの事実はあくまで動機や事実上の所感にとどまり、譲渡契約の内容を構成する法的合意には至っていないと評価される。
結論
「借金を返せば戻してやる」という点は本件契約の内容とならなかったとする原審の判断は正当であり、上告を棄却する。
実務上の射程
事件番号: 昭和32(オ)471 / 裁判年月日: 昭和36年3月17日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】信義則(民法1条2項)および禁反言の法理の適用について、原判決の認定した事実関係に照らせば、その主張を排斥した判断は正当である。具体的判決文からは詳細な事実や法的構成は示されていないが、信義則違反の成否は確定した事実関係に基づき判断される。 第1 事案の概要:上告人は、原判決の認定した事実関係が信…
契約の成立や内容を確定する際、当事者の言動が単なる事実上のやり取り(社交辞令や期待)か、法的な効果を伴う意思表示かを区別する判断基準として機能する。答案上は、合意の存否が争われる場面で、客観的な表示から「法律上の効果を生ぜしむべき意思」が認められるかを論じる際の根拠となる。
事件番号: 昭和30(オ)648 / 裁判年月日: 昭和32年9月17日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】表見代理の成立要件である「正当の理由」の有無は、事実認定の問題であり、原審が証拠に基づいてこれを否定した判断は違法ではない。 第1 事案の概要:上告人の代理人Dが、訴外Eに被上告人を代理して本件土地を売却する権限があるものと信じて取引を行った。上告人は、Dがそのように信じたことについて「正当の理由…
事件番号: 昭和30(オ)573 / 裁判年月日: 昭和31年10月4日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】証言の一部に事実に符合しない部分があっても、それだけで直ちに他の部分が信用できなくなるものではなく、証拠の採否は事実審の専権に属する。 第1 事案の概要:上告人は、原審における事実認定に関し、経験則に反する認定があること、および採証の法則に違反して事実認定が行われたことを主張した。具体的には、証言…
事件番号: 昭和31(オ)773 / 裁判年月日: 昭和33年4月22日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】民法579条の要件を満たさない買戻しの特約であっても、公序良俗に反する等の事情がない限り、契約自由の原則に基づき有効である。また、事情変更の原則の適用には、当初の契約を維持することが信義則に著しく反するほどの重大な事情の変更が必要である。 第1 事案の概要:被上告人(売主)は、昭和20年4月19日…
事件番号: 昭和30(オ)11 / 裁判年月日: 昭和35年9月1日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】貨幣価値に著しい変動が生じた場合であっても、契約上の債権額が当然に修正されることはなく、当初の約定通りの金額による買戻権の行使は適法である。 第1 事案の概要:昭和17年9月に不動産の売買契約が成立し、買戻しの特約が付された。その後、昭和27年9月に被上告人が上告人に対して買戻しの意思表示を行った…