判旨
民法579条の要件を満たさない買戻しの特約であっても、公序良俗に反する等の事情がない限り、契約自由の原則に基づき有効である。また、事情変更の原則の適用には、当初の契約を維持することが信義則に著しく反するほどの重大な事情の変更が必要である。
問題の所在(論点)
1. 民法579条の要件(買戻代金の制限等)を満たさない買戻しの特約は、契約として無効となるか。 2. 契約後の経済情勢の変化に基づき、事情変更の原則による契約の変更や解除が認められるか。
規範
1. 民法579条の規定(代金・費用の返還や期間制限等)と異なる内容の買戻契約であっても、同条以下の法的性質を有する「買戻し」としての効力が認められないにとどまり、私的自治の原則に基づき、通常の合意解約権を留保する契約として有効である。 2. 契約締結後の社会情勢や経済状況の変化を理由に契約の解除や変更を認める「事情変更の原則」を適用するためには、契約の基礎となった事情に、当事者が予見できず、かつ当事者の責めに帰すべきでない重大な変更が生じ、当初の契約を維持することが信義則に反する程度に至ることを要する。
重要事実
被上告人(売主)は、昭和20年4月19日、上告人(買主)との間で不動産売買契約を締結した際、5万円を返還すれば本件不動産を買い戻すことができる旨の特約を結んだ。その後、被上告人がこの特約に基づき買戻しを求めたところ、買主である上告人は、当該特約が民法579条の要件を欠き無効であること、および契約後の経済事情の激変により事情変更の原則が適用されるべきであることを主張して争った。
あてはめ
1. 本件特約は、民法579条以下の「買戻し」の規定が当然に適用されるものではないとしても、当事者間の合意による契約としてその有効性を妨げる理由はない。 2. 上告人は激しいインフレーション等の経済情勢の変化を背景に事情変更の原則の適用を主張するが、本件の事実関係に照らせば、いまだ当該原則を適用して契約の効力を否定しなければならないほどの重大な事情の変更があったとは認められない。したがって、被上告人が特約に基づき買戻権を行使することは信義則に反するとはいえない。
結論
本件買戻特約は有効であり、事情変更の原則の適用も否定される。したがって、被上告人による買戻しは認められ、上告人の主張は棄却される。
事件番号: 昭和26(オ)273 / 裁判年月日: 昭和29年2月16日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】契約成立後の事情変更を理由とする契約解除や改訂を認めるには、当事者が予見し得なかった事情の変化が生じ、当初の契約通りの効果を発生させることが著しく信義衡平の原則に反する場合に限られる。本件のように、物価高騰が予見可能であり、かつ債務者が履行を不当に阻害した等の事情がある場合には、事情変更の原則の適…
実務上の射程
民法上の「買戻し」(579条)の要件(期間5年等)を充たさない場合でも、再売買の予約(556条)や合意解約権留保として構成すれば有効となり得ることを示唆する。答案上は、事情変更の原則の適用要件((1)事情の変更、(2)予見不可能性、(3)責めに帰すべき事由の欠如、(4)拘束力維持の過酷性)を論じる際の消極例として参照できる。
事件番号: 昭和26(オ)813 / 裁判年月日: 昭和29年1月28日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】事情変更の原則が適用されるためには、契約成立当初の法律上の効果をそのまま発生・維持させることが著しく信義衡平に反する場合であることを要する。 第1 事案の概要:上告人は、契約成立後の事情変更(詳細は判決文からは不明)により、当初の契約の効力を維持することが不当であると主張して上告した。原審は、当該…
事件番号: 昭和39(オ)183 / 裁判年月日: 昭和41年9月20日 / 結論: 破棄差戻
一たん適法に提出された農地法第五条所定の知事に対する許可申請書が、原判決判示(本判決理由参照)のような実際上の理由から便宜的に返戻され、手続上は申請の任意撤回として処理された場合には、いまだ売買の法定条件不成就が確定したものとはいえず、売主は、再度許可申請手続をして知事の正式な許否の処分を求めることに協力する義務を免れ…
事件番号: 昭和30(オ)571 / 裁判年月日: 昭和32年4月5日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】不動産の譲受人が譲渡人に対し「借金を返せば戻してやる」と述べ、譲渡人も「将来取り戻せばよい」と考えていたとしても、それが直ちに法律上の効果を生じさせる合意(契約の内容)になるとは限らない。 第1 事案の概要:上告人と被上告人Bとの間で本件不動産譲渡契約が締結された際、被上告人Bは上告人に対し「借金…
事件番号: 昭和31(オ)1013 / 裁判年月日: 昭和33年3月4日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】当事者間に不動産の所有権の帰属や、過去の調停条項が指し示す建物の特定について争いがある場合、互いに譲歩して紛争を終結させる合意は和解契約としての効力を有する。 第1 事案の概要:上告人は昭和21年8月以降、松山市内の土地家屋(通称D)を使用してきたが、その所有権がEに留保されているのか、上告人に移…