一たん適法に提出された農地法第五条所定の知事に対する許可申請書が、原判決判示(本判決理由参照)のような実際上の理由から便宜的に返戻され、手続上は申請の任意撤回として処理された場合には、いまだ売買の法定条件不成就が確定したものとはいえず、売主は、再度許可申請手続をして知事の正式な許否の処分を求めることに協力する義務を免れない。
農地法第五条所定の知事に対する許可申請書が返戻された場合と売主の許可申請手続協力義務
農地法5条
判旨
農地の転用売買における売主は、知事の許可が得られるよう信義則上の協力義務を負い、単なる申請書の返戻という便宜的事実行為だけでは当該義務は消滅せず、正式な許否処分がなされるまで継続する。
問題の所在(論点)
農地転用許可申請が「任意撤回による返戻」という形式で処理された場合、売主の協力義務は消滅し、売買契約の停止条件は不成就として確定するか。知事の正式な「不許可処分」がない段階での協力義務の成否が問題となる。
規範
農地法5条の許可を停止条件とする売買契約において、売主は買主と協力して許可申請手続を行い、契約を効力あらしめるよう信義則上努力すべき義務を負う。この義務は、知事の許可を得るか、あるいは売主が尽くすべき努力をしてもなお許可を得ることができない事由に基づく不許可処分が確定するまで免れることはできない。
重要事実
上告人(買主)と被上告人(売主)は、農地転用目的の売買契約を締結し、連名で農地法5条の許可申請を行った。知事は、被上告人の世帯員が借用中の別農地に関し、地主への返還または地主の承諾が不明であることを理由に、申請の任意撤回という形で申請書を返戻した。被上告人は、地主の承諾を得る見込みがなく返還も困難であるとして、協力義務は履行済みであり、条件不成就が確定したと主張した。
事件番号: 昭和42(オ)1415 / 裁判年月日: 昭和43年6月21日 / 結論: 棄却
農地法第五条の知事の許可を要する農地の売買契約で解約手附が授受された場合において、売主および買主が連署のうえ同条による許可申請書を知事あてに提出したときは、特約その他特別の事情のないかぎり、売主および買主は、民法第五五七条第一項にいう「契約ノ履行ニ著手」したものと解すべきである。
あてはめ
本件における申請書の返戻は、小作地の地主との調整を促す便宜的な事実行為にすぎず、将来にわたる確定的な不許可判断ではない。調整の見込みがない場合であっても、被上告人はその事情を具して改めて申請手続を行い、知事の実質的判断に基づく正式な許否処分を求めるべきである。したがって、単なる返戻をもって停止条件が不成就に確定したとはいえず、被上告人の協力義務は依然として存続すると解される。
結論
売主は依然として許可申請手続をなすべき義務を負い、条件不成就が確定したとはいえない。原審の判断には理由齟齬の違法があるため、破棄差し戻しを免れない。
実務上の射程
停止条件付契約における信義則上の協力義務の限界を示した判例である。行政庁による指導や便宜的な返戻にとどまるうちは「条件不成就の確定」とは認められず、義務を免れるためには法的な拒絶処分(不許可処分)が必要とされる。答案上は、条件付債権の侵害や信義則上の義務違反の論文において、義務の終期を確定させる際の基準として活用できる。
事件番号: 昭和39(オ)1051 / 裁判年月日: 昭和42年4月6日 / 結論: 棄却
畑を宅地に転用するための農地の売買契約がなされた場合において、売主が知事に対する許可申請手続に必要な書類を買主に交付したのに、買主が特段の事情もなく右許可申請手続をしないときには、売主は、これを理由に売買契約を解除することができる。
事件番号: 昭和30(オ)321 / 裁判年月日: 昭和32年4月30日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】農地の売買において、都道府県知事の許可を停止条件とする契約を締結することは農地法(旧農地調整法)に反せず、許可が得られた場合には、売主は地目変換の申告や登記手続等の契約上の義務を履行する責任を負う。 第1 事案の概要:買主(被上告人)は、農地を工場敷地として利用するため、売主(上告人)との間で本件…
事件番号: 昭和32(オ)592 / 裁判年月日: 昭和35年2月23日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】農地の売買契約が県知事の許可を効力発生条件として締結された場合、当該契約は有効であり、売主は許可申請手続に協力する義務を負う。 第1 事案の概要:上告人と被上告人との間で、県知事の許可を効力発生の条件として農地の売買契約が締結された。しかし、売主である上告人が許可申請手続に協力しなかったため、買主…
事件番号: 昭和39(オ)1226 / 裁判年月日: 昭和41年6月30日 / 結論: その他
現況宅地である土地について農地法第三条の知事の許可を条件として所有権移転登記を請求する訴訟が提起された場合には、裁判所は、宅地としての売買による所有権移転登記の請求についてまで前記条件を付する趣旨か否かを釈明して判断するのが相当である。