畑を宅地に転用するための農地の売買契約がなされた場合において、売主が知事に対する許可申請手続に必要な書類を買主に交付したのに、買主が特段の事情もなく右許可申請手続をしないときには、売主は、これを理由に売買契約を解除することができる。
農地の買主が知事に対する許可申請手続をしない場合と売買契約の解除
民法541条,農地法5条,農地法施行規則6条,農地法施行規則2条2項
判旨
農地の売買において、売主が許可申請等の協力義務を履行したにもかかわらず、買主がその義務を怠り契約目的を達し得ないときは、売主は履行の催告を経て契約を解除できる。また、解除前の催告に許可申請をなすべき旨の意思表示が含まれる場合、それに基づき契約を適法に解除し得る。
問題の所在(論点)
農地売買において知事の許可が得られていない場合、買主が協力義務(許可申請等)を怠ったことを理由に、売主は民法541条に基づく契約解除ができるか。また、代金支払の催告に協力義務の催告が含まれるか。
規範
1. 農地転用を目的とする売買では、知事の許可が所有権移転の効力発生要件であるため、特段の事情がない限り、許可があるまで買主は代金支払を拒絶できる(民法533条)。 2. しかし、許可申請等は双方申請主義(農地法等)に基づく協力義務があるため、売主が履行の提供(準備行為)をしたにもかかわらず、買主が協力義務を怠り契約目的の達成を妨げた場合には、売主は民法541条に基づき契約を解除できる。 3. 解除の前提となる代金支払催告の中に、許可申請手続をなすべき旨の意思表示が包含されていると解される場合は、手続の懈怠を理由とする解除も有効となる。
重要事実
買主X(上告人)は、売主亡D(被上告人Bの先代)から農地を買い受け、代金50万円のうち内金のみを支払い、残代金の支払期限を定めた。Xは、登記や農地法5条の許可申請に必要な書類一切をDから受領し、手続を一任されていた。しかし、Xは期限までに特段の理由なく手続を行わず、自ら招いた許可・登記の未了を理由に代金を支払わなかった。Dの相続人Bは、残代金の支払を催告した上で、不払を理由に解除の意思表示をした。
事件番号: 昭和42(オ)1415 / 裁判年月日: 昭和43年6月21日 / 結論: 棄却
農地法第五条の知事の許可を要する農地の売買契約で解約手附が授受された場合において、売主および買主が連署のうえ同条による許可申請書を知事あてに提出したときは、特約その他特別の事情のないかぎり、売主および買主は、民法第五五七条第一項にいう「契約ノ履行ニ著手」したものと解すべきである。
あてはめ
売主Dは、契約締結と同時に登記・許可申請に必要な書類を交付しており、債務の本旨に従った準備行為(履行の提供)を完了していた。対して買主Xは、書類を受領し手続を一任されながら、期限までに許可申請等を全く行っておらず、協力義務の懈怠が認められる。Bによる残代金支払の催告には、その前提となる許可申請等をなすべき催告の意思表示も包含されていると解すべきであり、Xがこれに応じなかった以上、契約目的を達し得ないものとしてなされた解除は有効である。なお、Dの死亡により書類の書き換えが必要となったとしても、手続を一任されたXが請求すべき事項であり、提供の適法性は失われない。
結論
買主の協力義務懈怠により契約目的を達し得ないため、売主による契約解除は有効である。
実務上の射程
農地売買のような許可を要する契約において、同時履行の抗弁権(民法533条)を制限し、協力義務違反を理由とした解除を認める重要な枠組みを示す。答案上は、代金支払義務と登記義務が対価的関係にない段階でも、信義則上の協力義務違反が契約解除の事由となり得ることを論証する際に用いる。
事件番号: 昭和48(オ)651 / 裁判年月日: 昭和49年12月17日 / 結論: 棄却
転用目的の農地の売主は、特別の事情がないかぎり、買主に対し、農業委員会が農地法五条の許可の判断資料として事実上提出を求めた隣接農地所有者の承諾を取得すべき義務を負うものではない。
事件番号: 昭和39(オ)183 / 裁判年月日: 昭和41年9月20日 / 結論: 破棄差戻
一たん適法に提出された農地法第五条所定の知事に対する許可申請書が、原判決判示(本判決理由参照)のような実際上の理由から便宜的に返戻され、手続上は申請の任意撤回として処理された場合には、いまだ売買の法定条件不成就が確定したものとはいえず、売主は、再度許可申請手続をして知事の正式な許否の処分を求めることに協力する義務を免れ…
事件番号: 昭和47(オ)1071 / 裁判年月日: 昭和48年9月7日 / 結論: 棄却
不動産の売買契約において、売買代金の支払が所有権移転登記手続に必要な一切の書類と引換えに支払う旨が約された場合に、売主が、登記済証が滅失したため保証書による登記手続をしょうとするときには、買主に対し保証書その他の登記申請に要する書類を提供したとしても、登記官吏に対し不動産登記法四四条ノ二第二項所定の申出をしないかぎり、…
事件番号: 昭和42(オ)30 / 裁判年月日: 昭和43年4月4日 / 結論: 棄却
共有者の一人が、権限なく、共有物を自己の単独所有に属するものとして他に売り渡した場合でも、売買契約は有効に成立し、自己の持分をこえる部分については、他人の権利の売買としての法律関係を生ずるとともに、自己の持分の範囲内においては、約旨に従つた履行義務を負う。