転用目的の農地の売主は、特別の事情がないかぎり、買主に対し、農業委員会が農地法五条の許可の判断資料として事実上提出を求めた隣接農地所有者の承諾を取得すべき義務を負うものではない。
転用目的の農地売買の売主と農業委員会が農地法第五条の許可の判断資料として求めた隣接農地所有者の承諾を取得すべき義務
民法555条,農地法5条
判旨
農地法5条の許可申請に必要な隣接地の承諾書取得義務は、特約のない限り売主には認められず、買主が当該義務の不存在を理由に申請手続を拒むことは、売主による契約解除の正当な事由となる。
問題の所在(論点)
農地法5条の許可を条件とする売買において、農業委員会から求められた隣接農地所有者の承諾書を取り付ける義務が売主にあるか。また、買主が当該義務の不履行を理由に申請手続を拒絶した場合に、売主からの解除が認められるか。
規範
1.農地の転用目的売買の当事者は、相互に農地法5条の許可申請手続に協力する義務を負うが、売主が自らの責任で許可を取得すべき義務まで負うものではない。 2.農業委員会が求めた資料が「買主側の土地利用や周辺農地への影響の調整」に関するものである場合、特約がない限り、その資料調達義務は売主には課されない。
重要事実
売主である被上告人らは、買主である上告会社に対し、農地法5条の許可を条件として農地を売却する契約を締結した。許可申請の実務は買主が行う合意があった。農業委員会が隣接農地所有者の承諾書の添付を求めたが、契約上その取得義務の所在は不明確であった。売主は早急な申請を求めたが、買主は承諾書の入手に固執して手続を停滞させたため、売主は履行遅滞を理由に契約解除を通知した。
事件番号: 昭和39(オ)1051 / 裁判年月日: 昭和42年4月6日 / 結論: 棄却
畑を宅地に転用するための農地の売買契約がなされた場合において、売主が知事に対する許可申請手続に必要な書類を買主に交付したのに、買主が特段の事情もなく右許可申請手続をしないときには、売主は、これを理由に売買契約を解除することができる。
あてはめ
本件の承諾書は、転用後の土地利用が周辺に与える影響を判断するための資料であり、性質上「買主側の事情」に関わるものである。したがって、特約のない本件では売主がその取付義務を負うとはいえない。そうすると、実務手続を担当する買主が、売主による承諾書未提出を理由に申請を拒むことは正当化されず、買主の協力義務違反(履行遅滞)が成立する。また、期間を定めない催告であっても、相当期間の経過により解除権は有効に発生する。
結論
売主に承諾取付義務はなく、買主の協力義務違反を理由とした売主による契約解除は有効である。
実務上の射程
農地売買における「協力義務」の具体的内容を画定する際の重要判例。許可申請に必要な資料が「買主の事業計画」や「周辺への影響」に属する場合、その準備義務は買主側にあると主張する際の根拠となる。また、条件付契約における履行遅滞解除の可否を判断する際にも参照される。
事件番号: 昭和42(オ)1415 / 裁判年月日: 昭和43年6月21日 / 結論: 棄却
農地法第五条の知事の許可を要する農地の売買契約で解約手附が授受された場合において、売主および買主が連署のうえ同条による許可申請書を知事あてに提出したときは、特約その他特別の事情のないかぎり、売主および買主は、民法第五五七条第一項にいう「契約ノ履行ニ著手」したものと解すべきである。
事件番号: 昭和35(オ)69 / 裁判年月日: 昭和36年11月21日 / 結論: 棄却
当事者の一方が契約をなした主たる目的の達成に必須的でない附随的義務の履行を怠つたにすぎないような場合には、特段の事情がないかぎり、相手方は、その義務の不履行を理由として当該契約を解除することができない。
事件番号: 昭和39(オ)183 / 裁判年月日: 昭和41年9月20日 / 結論: 破棄差戻
一たん適法に提出された農地法第五条所定の知事に対する許可申請書が、原判決判示(本判決理由参照)のような実際上の理由から便宜的に返戻され、手続上は申請の任意撤回として処理された場合には、いまだ売買の法定条件不成就が確定したものとはいえず、売主は、再度許可申請手続をして知事の正式な許否の処分を求めることに協力する義務を免れ…
事件番号: 昭和51(オ)1287 / 裁判年月日: 昭和52年4月4日 / 結論: 棄却
農地法五条の知事の許可を要する農地の売買契約で解約手附が授受された場合において、買主が残代金全額を支払いのため売主に提供したときは、それが知事の許可を受ける前であつても、民法五五七条一項にいう「契約ノ履行ニ著手」したときにあたる。