当事者の一方が契約をなした主たる目的の達成に必須的でない附随的義務の履行を怠つたにすぎないような場合には、特段の事情がないかぎり、相手方は、その義務の不履行を理由として当該契約を解除することができない。
いわゆる附随的義務の不履行と契約の解除。
民法541条
判旨
債務不履行を理由とする契約解除において、不履行となった債務が契約の目的達成に必須ではない附随的義務に過ぎない場合には、特段の事情がない限り、契約の解除は認められない。
問題の所在(論点)
債務者が契約上の義務の一部を履行しない場合において、当該義務が契約の主たる目的達成に必須ではない「附随的義務」であるとき、債権者は民法(当時の規定。現行法541条等)に基づき契約を解除することができるか。
規範
法律が債務の不履行による契約の解除を認める趣旨は、契約の要素をなす債務の履行がないために、当該契約をなした目的を達することができない場合を救済する点にある。したがって、当事者が契約をなした主たる目的の達成に必須的でない附随的義務の履行を怠ったに過ぎない場合には、特段の事情の存しない限り、相手方は当該契約を解除することができない。
重要事実
売買契約において、買主が判示租税負担義務(具体的な税目等の詳細は判決文からは不明)の履行を怠った。売主は、この義務不履行を理由として売買契約の解除を主張し、争いとなった。一審判決および原審は、当該義務が売買契約の目的達成に必須ではない附随的義務であり、契約の要素ではないと判断した。
事件番号: 昭和33(オ)76 / 裁判年月日: 昭和35年5月27日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】売買契約において残代金の支払期日を徒過した際に「当然に契約解除となる」旨の約款が存在する場合であっても、特段の事情がない限り、直ちに無催告で解除の効果が発生するものではないと解するのが相当である。 第1 事案の概要:本件では、売買契約の当事者間で残代金の支払期日が定められ、当該期日を徒過した場合に…
あてはめ
本件における租税負担義務は、本件売買契約の目的達成に必須的ではない附随的義務に過ぎない。また、当該義務が契約の要素であると解すべき特段の事情も認められない。そうであれば、契約の主たる目的の達成が妨げられるわけではないため、右義務の不履行をもって契約を解除することは、解除制度の本旨に照らして認められない。
結論
租税負担義務の不履行を原因とする本件売買契約の解除は無効である。
実務上の射程
解除の要件としての「不履行の重要性」(現行法541条ただし書)を基礎付ける判例である。答案上は、不履行となった債務が「主たる債務」か「附随的義務」かを区別する際に本基準を用いる。特段の事情の有無を検討する際は、契約締結の経緯や目的、不履行が全体に与える影響を論じる必要がある。
事件番号: 昭和26(オ)355 / 裁判年月日: 昭和29年2月2日 / 結論: 破棄差戻
【結論(判旨の要点)】債務者が債務の履行を拒絶する意思を明確に表示した場合や、予め受領を拒絶した場合には、債権者が契約を解除するにあたり、自己の債務の現実の提供を行う必要はない。 第1 事案の概要:上告人(売主)と被上告人(買主)は土地の売買契約を締結した。履行期日の定めはなかったが、分筆登記準備完了後に通知・請求し、…
事件番号: 昭和31(オ)719 / 裁判年月日: 昭和32年10月8日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】事情の変更により契約解除権を認めるためには、信義衡平上、当事者を当該契約によって拘束することが著しく不当と認められる場合であることを要する。また、売買契約において解約手附の授受があったとしても、事情変更による解除権の成否には影響しない。 第1 事案の概要:上告人と被上告人との間で土地売買契約が締結…
事件番号: 昭和32(オ)495 / 裁判年月日: 昭和35年3月1日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】売買契約の解除を主張するにあたり、解除の意思表示が単なる事情の説明に留まらず、予備的な主張としてなされたといえるためには、文言上その趣旨が明らかでなければならない。また、催告を欠く解除の意思表示は、有効な解除としての効力を認められない。 第1 事案の概要:不動産の売買契約において、売主(上告人)が…
事件番号: 昭和39(オ)1197 / 裁判年月日: 昭和40年11月16日 / 結論: 棄却
売買契約解除の場合に割賦支払済代金は売主において没収する特約があつたとの原告主張を被告が否認する旨主張しているからといつて、原告の原状回復請求に対し、支払済代金の返還をもつて同時履行の抗弁を提出したものとは解されない。