判旨
債務者が債務の履行を拒絶する意思を明確に表示した場合や、予め受領を拒絶した場合には、債権者が契約を解除するにあたり、自己の債務の現実の提供を行う必要はない。
問題の所在(論点)
相手方が履行拒絶の意思を明確にしている場合において、契約を解除するために、解除を求める側が自己の債務について「現実の提供」をすることが必要か(民法541条、493条)。
規範
双務契約において、相手方の履行遅滞を理由に契約を解除する場合、原則として自己の債務の履行の提供(民法493条)を要する。しかし、相手方が履行の意思がないことを明らかにした場合、またはあらかじめ受領を拒絶した場合には、もはや現実の提供をすることは無意味であるため、解除の要件として現実の提供を要しない。
重要事実
上告人(売主)と被上告人(買主)は土地の売買契約を締結した。履行期日の定めはなかったが、分筆登記準備完了後に通知・請求し、登記と同時に残代金を支払う約束であった。上告人が準備を終え、被上告人に対し登記と引換えに残代金の支払を求めたところ、被上告人は土地の一部除外を主張してこれに応じなかった。その後も再三交渉したが被上告人は固執し、履行に応じなかった。原審は、上告人が債務の「現実の提供」をしていないことを理由に、解除を認めず上告人敗訴の判決を下した。
あてはめ
本件において、被上告人は上告人からの履行請求に対し、契約内容の一部除外という不当な条件を付して履行を拒んでいる。このような態度は「履行の意思なきこと明な場合」または「予め受領を拒絶した場合」に該当する。この場合、上告人に対して登記義務の現実の提供を強いることは酷であり、かつ無意味である。したがって、上告人が現実の提供をしていなくとも、解除の効力を妨げるものではないと解される。
結論
相手方が履行拒絶の意思を明確に示しているときは、現実の提供をすることなく契約を解除できる。現実の提供がないことを理由に解除を認めなかった原判決は破棄されるべきである。
事件番号: 昭和32(オ)495 / 裁判年月日: 昭和35年3月1日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】売買契約の解除を主張するにあたり、解除の意思表示が単なる事情の説明に留まらず、予備的な主張としてなされたといえるためには、文言上その趣旨が明らかでなければならない。また、催告を欠く解除の意思表示は、有効な解除としての効力を認められない。 第1 事案の概要:不動産の売買契約において、売主(上告人)が…
実務上の射程
履行遅滞による解除の場面において、相手方の「履行拒絶」がある場合に、493条の提供をどこまで厳格に求めるかという論点で活用する。催告解除における「提供」の要否を判断する重要な指標となる。また、履行不能における提供不要の理屈を、拒絶の場面へ類推的に広げるロジックとしても機能する。
事件番号: 昭和31(オ)686 / 裁判年月日: 昭和35年10月27日 / 結論: 棄却
一 契約解除の前提としての催告が有効であるためには、少くとも催告と同時に相手方が遅滞に付されることを要する。 二 双務契約上の債務の受領遅滞にある者が契約解除の前提としての催告をするためには、受領遅滞を解消させた上でこれをしなければならない。
事件番号: 昭和35(オ)406 / 裁判年月日: 昭和37年3月23日 / 結論: 棄却
証人らが訴訟当事者の一方の妻あるいは妻の兄の関係にあるとしても、その一事によつて右証人らが証人能力を有しないとか、証言の証拠価値が薄弱であるとかは断定できない。
事件番号: 昭和35(オ)505 / 裁判年月日: 昭和36年6月22日 / 結論: 棄却
双務契約上の債務が同時履行の関係に立つ場合、右契約を解除しようとする当事者の債務の履行の提供は、催告に指定された履行期日にこれをすれば足りる。
事件番号: 昭和49(オ)1202 / 裁判年月日: 昭和50年12月26日 / 結論: 棄却
土地の買主が、所有権移転登記をうけなかつたが申請手続の過誤により隣地につき所有権移転登記がされたためであり、土地の引渡はうけその使用をつづけた等判示の事実関係のもとにおいては、買受代金の支払について所有権移転登記手続との同時履行を主張することは信義則上許されない。