判旨
事情の変更により契約解除権を認めるためには、信義衡平上、当事者を当該契約によって拘束することが著しく不当と認められる場合であることを要する。また、売買契約において解約手附の授受があったとしても、事情変更による解除権の成否には影響しない。
問題の所在(論点)
契約締結後の事情の変化を理由に解除権が発生するための要件(事情変更の原則)は何か。また、解約手附が授受されている事実は、事情変更による解除権の発生に影響を及ぼすか。
規範
事情の変更を理由とする契約解除が認められるためには、契約締結時には予期できなかった事情の変更が生じ、その結果、信義衡平の観点から当事者を当初の契約内容に拘束し続けることが著しく不当(過酷)と認められる特段の事情があることを要する。なお、この理は解約手附の授受がある場合でも同様に妥当する。
重要事実
上告人と被上告人との間で土地売買契約が締結された。当該契約には解約手附の授受があったが、その後、契約の前提となる状況に変化が生じたとして、上告人が事情変更を理由に売買契約の解除を主張した。原審は、上告人が主張する事実関係の下では、事情変更による解除権の成立を否定していた。
あてはめ
本件における具体的な事情変更の内容については判決文からは不明であるが、最高裁は原審の認定に基づき、事情変更による解除権を否定した判断を「きわめて明らか」であるとして支持した。解約手附の有無に関わらず、本件で主張された事情の変化は、信義衡平の観点から契約の拘束力を否定し、解除を認めなければならないほど「著しく不当」な状況には至っていないと評価される。
結論
事情変更による解除権は、契約による拘束が信義衡平上著しく不当な場合に限り認められる。本件ではその要件を満たさず、解除は認められない。
実務上の射程
事件番号: 昭和35(オ)69 / 裁判年月日: 昭和36年11月21日 / 結論: 棄却
当事者の一方が契約をなした主たる目的の達成に必須的でない附随的義務の履行を怠つたにすぎないような場合には、特段の事情がないかぎり、相手方は、その義務の不履行を理由として当該契約を解除することができない。
司法試験においては、契約後の急激な物価高騰や経済情勢の変動により、当初の対価での履行が困難となった事案で、信義則(民法1条2項)の派生原理として「事情変更の原則」を論じる際の規範として用いる。解約手附の有無にかかわらず適用可能である点も重要である。
事件番号: 昭和31(オ)773 / 裁判年月日: 昭和33年4月22日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】民法579条の要件を満たさない買戻しの特約であっても、公序良俗に反する等の事情がない限り、契約自由の原則に基づき有効である。また、事情変更の原則の適用には、当初の契約を維持することが信義則に著しく反するほどの重大な事情の変更が必要である。 第1 事案の概要:被上告人(売主)は、昭和20年4月19日…
事件番号: 昭和29(オ)225 / 裁判年月日: 昭和31年4月10日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】売買の予約成立と予約完結権の行使は別個の概念であり、それらを混同して判決の不備を主張することは、上告理由となる重要な法令解釈の主張には当たらない。 第1 事案の概要:上告人は、原審における事実認定を非難するとともに、売買予約の成立と予約完結権の行使を混同した独自の解釈に基づき、原判決には理由の齟齬…
事件番号: 昭和38(オ)936 / 裁判年月日: 昭和40年11月25日 / 結論: 破棄差戻
手附倍戻しにより売買契約が解除されて終了したと主張して右売買契約が存在しないことの確認を求める訴は、文言どおり解すれば、過去の法律関係の確認を求めるのと異なるところがないが、右売買契約が解除された結果生ずべき現在の権利または法律関係について直接に確認または給付を求める趣旨が窺えないでもないから、原審としては、右請求につ…
事件番号: 昭和30(オ)720 / 裁判年月日: 昭和35年4月21日 / 結論: 棄却
不動産の二重売買の場合において、売主の一方の買主に対する債務は、特段の事情のないかぎり、他の買主に対する所有権移転登記が完了した時に履行不能になるものと解すべきである。