不動産の売買契約において、売買代金の支払が所有権移転登記手続に必要な一切の書類と引換えに支払う旨が約された場合に、売主が、登記済証が滅失したため保証書による登記手続をしょうとするときには、買主に対し保証書その他の登記申請に要する書類を提供したとしても、登記官吏に対し不動産登記法四四条ノ二第二項所定の申出をしないかぎり、買主は代金支払債務の履行を拒絶しうるものと解すべきである。
売買を原因とする所有権移転登記手続が保証書によつてなされる場合と買主の代金支払義務の履行
民法533条
判旨
不動産売買において代金支払と登記書類提供が引換給付の関係にある場合、登記済証滅失に伴う保証書提供による登記手続では、売主が登記所に申出を行わない限り、買主は代金支払を拒絶できる。
問題の所在(論点)
不動産の引換給付契約において、登記済証が滅失し保証書による登記手続を行う場合、売主が登記官への申出を行わずに書類を提供したのみで、買主の代金支払拒絶を封じることができるか(民法533条の履行の提供として有効か)。
規範
不動産売買契約において、代金支払と所有権移転登記手続に必要な一切の書類の提供が引換給付の関係にある場合、売主が登記済証の滅失により保証書を用いた登記手続を行うときは、単に保証書等の書類を提供するだけでなく、登記官に対して不動産登記法上の必要な申出(現行法の事前通知制度等に相当する手続)を完了しなければ、債務の履行の提供として不十分であり、買主は同時履行の抗弁権(民法533条)に基づき代金支払を拒絶できる。
重要事実
不動産の売買契約において、売買代金の支払と引き換えに所有権移転登記手続に必要な一切の書類を交付する旨が約定された。売主は登記済証を滅失していたため、保証書による登記手続(旧不動産登記法下の制度)を選択し、買主に対して保証書およびその他の登記申請書類を提供した。しかし、売主は登記官に対する不動産登記法44条の2第2項所定の申出を行っていなかった。
事件番号: 昭和39(オ)1051 / 裁判年月日: 昭和42年4月6日 / 結論: 棄却
畑を宅地に転用するための農地の売買契約がなされた場合において、売主が知事に対する許可申請手続に必要な書類を買主に交付したのに、買主が特段の事情もなく右許可申請手続をしないときには、売主は、これを理由に売買契約を解除することができる。
あてはめ
本件契約では、代金支払と「登記手続に必要な一切の書類」が引換関係にある。登記済証に代えて保証書を用いる場合、単なる書類の交付だけでは登記の確実な経由が担保されない。登記官に対する法定の申出が行われて初めて、買主が目的とする所有権移転登記の完了が確実なものとなる。本件では売主がこの申出を欠いている以上、提供された書類は契約上の「一切の書類」として不十分であり、適法な履行の提供とはいえない。したがって、買主には代金支払債務の履行を拒絶する正当な理由が認められる。
結論
売主が登記官に対する必要な申出を行わない限り、買主は代金支払債務の履行を拒絶することができる。
実務上の射程
同時履行の抗弁権における「履行の提供」の具体的内容を示す。現行の不動産登記法における「事前通知制度」や「資格者代理人による本人確認情報」の提供が問題となる場面においても、登記手続の確実性を確保する水準までの協力が売主に求められることを裏付ける実務上の指針となる。
事件番号: 昭和50(オ)807 / 裁判年月日: 昭和51年2月17日 / 結論: 棄却
不動産の強制競売において競落許可決定が確定して競落人がその代金を全額支払い、右競落不動産の所有権を取得したときは、その後、執行債権が消滅したことを理由に強制競売手続開始決定が取り消され、競売申立が却下されても、競落の効果に影響を及ぼさない。
事件番号: 昭和35(オ)1163 / 裁判年月日: 昭和36年3月17日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】売買契約の目的物である土地が第三者によって競落され、当該第三者のために所有権移転登記がなされた場合、売主の債務は特段の事情のない限り履行不能に陥る。 第1 事案の概要:上告人(売主)は、被上告人(買主)に対して本件土地を売り渡したが、その後、当該土地が訴外Dによって競落された。さらに、当該土地につ…
事件番号: 昭和31(オ)678 / 裁判年月日: 昭和32年12月20日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】売買契約において代金支払債務を所有権移転登記手続に先行させる旨の特約がある場合には、両債務間に同時履行の関係は成立せず、特約に従った履行遅滞による解除権の行使も信義則に反しない。 第1 事案の概要:被上告人(売主)と上告人(買主)との間の不動産売買契約において、代金債務の履行期を所有権移転登記手続…
事件番号: 昭和31(オ)686 / 裁判年月日: 昭和35年10月27日 / 結論: 棄却
一 契約解除の前提としての催告が有効であるためには、少くとも催告と同時に相手方が遅滞に付されることを要する。 二 双務契約上の債務の受領遅滞にある者が契約解除の前提としての催告をするためには、受領遅滞を解消させた上でこれをしなければならない。