不動産の強制競売において競落許可決定が確定して競落人がその代金を全額支払い、右競落不動産の所有権を取得したときは、その後、執行債権が消滅したことを理由に強制競売手続開始決定が取り消され、競売申立が却下されても、競落の効果に影響を及ぼさない。
競落人が競落不動産の所有権を取得したのちにおける強制競売手続開始決定の取消と競落の効果
民訴法545条,民訴法686条
判旨
執行力ある確定判決に基づく強制競売において、代金支払前に債権が消滅していても、競落人が代金を完納した以上、不動産の所有権は競落人に移転する。その後の請求異議の訴えによる執行取消決定は、既に生じた所有権取得の効力に影響を及ぼさない。
問題の所在(論点)
執行力ある確定判決に基づく強制競売において、代金完納前に実体法上の債権が消滅していた場合や、後に執行取消決定がなされた場合に、買受人(競落人)が不動産の所有権を取得できるか。
規範
執行力ある確定判決の正本に基づく強制競売において、競落許可決定が確定し、競落人が代金を全額支払った場合には、たとえ代金支払前に債権が消滅していたとしても、不動産の所有権は競落人に移転する。また、代金支払後に請求異議の訴え等の結果として競売手続開始決定が取り消され、競売申立てが却下されたとしても、競落人が取得した所有権の効力には何ら影響を及ぼさない。
重要事実
債権者(被上告人)は債務者(上告人)に対し、執行力ある確定判決に基づき強制競売を申し立て、自らこれを競落した。競落許可決定は昭和46年7月16日に確定した。債務者は同年10月16日に債務全額を弁済供託し、同月18日に請求異議の訴えを提起して執行停止決定を得たが、債権者は同日(執行停止決定の効力発生前)に代金を全額支払った。その後、請求異議の訴えで債務者勝訴の判決が確定し、昭和50年に強制競売手続開始決定が取り消された。
事件番号: 昭和41(オ)352 / 裁判年月日: 昭和41年10月20日 / 結論: 棄却
競売法による競売手続において、その手続の完了前に競売の基本である抵当権が消滅した場合には、右消滅による抵当権抹消登記手続を経由すると否とを問わず、競落人は目的不動産の所有権を取得できない(昭和三七年(オ)第一一二号同年八月二八日第三小法廷判決、民集一六巻八号一七九九頁参照)。
あてはめ
本件では、被上告人が競落許可決定の確定を経て、代金を全額支払っている。代金支払の2日前に債務の弁済供託がなされているが、手続上有効な確定判決に基づき開始された強制競売において代金が支払われた以上、所有権移転の効力が生じる。また、その後に請求異議の訴えの結果として開始決定が取り消され、申立てが却下されたとしても、それは既に代金完納によって完成した所有権取得の効果を遡及的に覆すものではないといえる。
結論
被上告人は本件土地の所有権を有効に取得する。
実務上の射程
執行の公信力(または手続の安定性)を重視する判例である。無権限者による競売(公信力否定)と異なり、一度「執行力ある債務名義」が存在した以上、実体上の債権消滅は代金完納による所有権取得を妨げない。司法試験では、執行法上の救済手段(請求異議、執行停止)が間に合わなかった場合の所有権の帰属を論じる際の決定的な根拠となる。
事件番号: 昭和47(オ)1071 / 裁判年月日: 昭和48年9月7日 / 結論: 棄却
不動産の売買契約において、売買代金の支払が所有権移転登記手続に必要な一切の書類と引換えに支払う旨が約された場合に、売主が、登記済証が滅失したため保証書による登記手続をしょうとするときには、買主に対し保証書その他の登記申請に要する書類を提供したとしても、登記官吏に対し不動産登記法四四条ノ二第二項所定の申出をしないかぎり、…
事件番号: 昭和56(オ)553 / 裁判年月日: 昭和57年9月10日 / 結論: 破棄差戻
競売手続停止の仮処分に違反して競売手続が続行された場合であつても、競落代金が支払われて競売手続が完了したときは、仮処分債権者は、競落不動産についての競落人の所有権の取得を否定することができない。
事件番号: 昭和35(オ)1017 / 裁判年月日: 昭和36年12月12日 / 結論: 棄却
書面によらない贈与による権利の移転を認める判決が確定した後は、既判力の効果として民法第五五〇条による取消権を行使して右贈与による権利の存否を争うことは許されない。