公正証書を債務名義とする不動産の強制競売において、競落許可決定が確定し競落代金の支払がされて競売手続が完結した場合には、右公正証書に実体上の無効原因があつても、これを理由として競落人による右不動産の所有権取得の効果をくつがえすことはできない。
実体上の無効原因がある公正証書に基づく不動産の強制競売手続が完結した場合と競落人の所有権取得
民訴法559条3号,民訴法686条
判旨
執行受諾文言のある公正証書に基づき、競売手続が完結して代金が支払われた後は、債務内容に実体上の無効事由があっても競落人の所有権取得を覆すことはできない。
問題の所在(論点)
執行証書(公正証書)に基づく強制競売において、代金納付により手続が完結した後に、債務名義に表示された実体上の権利義務の無効を理由として、買受人の所有権取得を否定できるか。
規範
債務者等の有効な作成嘱託及び執行受諾の意思表示に基づき作成された公正証書を債務名義とする強制競売手続において、たとえ表示された権利義務関係に実体上の無効事由があるとしても、請求異議の訴え等の法定の手続によって強制執行が停止・取消されることなく、売却(競落)許可決定が確定し代金が支払われて手続が完結した場合には、もはや右無効を理由に買受人(競落人)による所有権取得の効果を覆すことはできない。
重要事実
債権者Dは、債務者との間で作成された執行受諾文言付の金銭消費貸借公正証書を債務名義として、本件土地の強制競売を申し立てた。同手続において、訴外組合が本件土地を競落し代金を完済した。その後、被上告人が訴外組合から本件土地を譲り受けた。これに対し、債務者側は、公正証書の基礎となる貸付が「拘束された即時両建預金」を条件とするものであり私法上無効であるとして、被上告人の所有権取得を争った。
事件番号: 昭和50(オ)807 / 裁判年月日: 昭和51年2月17日 / 結論: 棄却
不動産の強制競売において競落許可決定が確定して競落人がその代金を全額支払い、右競落不動産の所有権を取得したときは、その後、執行債権が消滅したことを理由に強制競売手続開始決定が取り消され、競売申立が却下されても、競落の効果に影響を及ぼさない。
あてはめ
本件では、債務者らの有効な意思表示に基づいて公正証書が作成されており、手続上の有効性は認められる。債務者側は貸付の私法上の無効(実体上の欠陥)を主張するが、既に競落許可決定が確定し、代金の支払いが完了して強制競売手続は完結している。この段階に至っては、たとえ実体上の無効事由があったとしても、請求異議の訴え等で執行を阻止しなかった以上、手続の安定性を優先すべきであり、買受人及びその承継人による所有権取得を左右することはできないと解される。
結論
競落代金の支払いがなされ競売手続が完結した後は、実体上の無効を理由に競落人による所有権取得を覆すことはできない。
実務上の射程
執行証書(公正証書)に公信力はないが、手続の安定性の観点から、代金納付後の実体的不備による遡及的無効を否定するものである。判決を債務名義とする場合(執行力の排除)との比較や、執行証書作成手続自体に瑕疵がある場合(無効な債務名義)との区別に注意して答案で使用する。
事件番号: 昭和46(オ)295 / 裁判年月日: 昭和48年4月3日 / 結論: 棄却
公正証書が甲を代理する権限のない乙の作成嘱託によつて作成されたものであるときは、該公正証書の効力は甲に及ばないというべきであり、その公正証書にもとづき甲所有の不動産についてされた強制競売手続は同人に対する関係では債務名義なくしてされたものというべきであつて、該不動産の競落人はその所有権を取得しない。
事件番号: 昭和45(オ)890 / 裁判年月日: 昭和46年2月25日 / 結論: 棄却
抵当権の実行のための競売開始決定が所有者に対して送達されないかしがあつても、競落許可決定が確定すれば、右かしを理由として同決定の無効を主張することは許されない。
事件番号: 昭和56(オ)553 / 裁判年月日: 昭和57年9月10日 / 結論: 破棄差戻
競売手続停止の仮処分に違反して競売手続が続行された場合であつても、競落代金が支払われて競売手続が完了したときは、仮処分債権者は、競落不動産についての競落人の所有権の取得を否定することができない。
事件番号: 昭和41(オ)352 / 裁判年月日: 昭和41年10月20日 / 結論: 棄却
競売法による競売手続において、その手続の完了前に競売の基本である抵当権が消滅した場合には、右消滅による抵当権抹消登記手続を経由すると否とを問わず、競落人は目的不動産の所有権を取得できない(昭和三七年(オ)第一一二号同年八月二八日第三小法廷判決、民集一六巻八号一七九九頁参照)。