判旨
契約成立後の事情変更を理由とする契約解除や改訂を認めるには、当事者が予見し得なかった事情の変化が生じ、当初の契約通りの効果を発生させることが著しく信義衡平の原則に反する場合に限られる。本件のように、物価高騰が予見可能であり、かつ債務者が履行を不当に阻害した等の事情がある場合には、事情変更の原則の適用は否定される。
問題の所在(論点)
契約締結後の急激な価格高騰という事態において、事情変更の原則に基づき契約の効力を否定または変更することが認められるか。特に、予見可能性の有無と、契約の維持が信義則に反するか否かが問題となる。
規範
事情変更の原則の適用が認められるためには、①契約締結時に予見できなかった事情の変化が生じたこと、②その変化が当事者の責めに帰すべからざる事由によること、③当初の契約通りの履行を強制することが著しく信義衡平の原則(民法1条2項)に反すること、という要件を充たす必要がある。特に、物価高騰等の経済的情勢の変化については、当事者がこれを予見し得たか否か、および契約の履行を維持することが著しく不公正といえるかを諸般の事情に基づき厳格に判断する。
重要事実
上告人と被上告人は、土地建物の売買契約を締結し、代金の半数に近い手附金が支払われた。残代金の支払時期は、賃借人Dが家屋を明け渡した時と約定されていた。しかし、その後物価が著しく高騰したため、売主である上告人は事情変更を理由に契約の失効等を主張した。なお、上告人はDによる家屋の明渡しを故意に阻止していたという事実が認定されている。
あてはめ
まず、本件契約当時において、物価が将来さらに高騰することは予見し得べきであったと判断される。次に、代金の約半分に相当する手附金が既に支払われていること、さらに、残代金支払の条件(家屋明渡し)を上告人自らが故意に阻害しているという事実が認められる。これらの事情を総合的に考慮すれば、物価高騰という事情の変化があったとしても、本件契約どおりの効果を発生させることが著しく信義衡平の原則に反するとは認められない。
結論
本件売買契約について事情変更の原則の適用は認められず、契約は有効に存続する。上告人の上告は棄却される。
事件番号: 昭和26(オ)813 / 裁判年月日: 昭和29年1月28日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】事情変更の原則が適用されるためには、契約成立当初の法律上の効果をそのまま発生・維持させることが著しく信義衡平に反する場合であることを要する。 第1 事案の概要:上告人は、契約成立後の事情変更(詳細は判決文からは不明)により、当初の契約の効力を維持することが不当であると主張して上告した。原審は、当該…
実務上の射程
司法試験においては、事情変更の原則の4要件(予見不能、帰責事由、過酷性、契約維持の不能)を明示した上で、本判例を「予見可能性」と「信義則違反(過酷性)」の判断基準として引用する。特に、一方の当事者が不誠実な行動(履行阻害等)をとっている場合に、信義則を理由に同原則の適用を否定する構成を採る際の有力な根拠となる。
事件番号: 昭和31(オ)773 / 裁判年月日: 昭和33年4月22日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】民法579条の要件を満たさない買戻しの特約であっても、公序良俗に反する等の事情がない限り、契約自由の原則に基づき有効である。また、事情変更の原則の適用には、当初の契約を維持することが信義則に著しく反するほどの重大な事情の変更が必要である。 第1 事案の概要:被上告人(売主)は、昭和20年4月19日…
事件番号: 昭和30(オ)703 / 裁判年月日: 昭和33年2月13日 / 結論: 破棄差戻
【結論(判旨の要点)】履行不能による損害賠償額を算定する基準となる目的物の価格について、特段の事情がない限り短期間で大幅に騰貴することは考え難い。そのため、近接した時期の認定価格に著しい乖離がある場合、その合理的な理由を明らかにすべきである。 第1 事案の概要:被上告人が第三者Dに不動産を売却したことで履行不能となった…
事件番号: 昭和43(オ)186 / 裁判年月日: 昭和43年5月30日 / 結論: 棄却
土地の売買契約において、買主が該売買契約によつて所有権を取得し、その引渡をも受けた後に、売主が、買主不知の間に、該土地に第三者のため根抵当権および地上権の設定登記をしたものである等原判示事情がある場合(原判決理由参照)に、売主が残代金の支払を催告し、その不払を理由に土地の売買契約を解除したときは、右催告は信義則に反し無…
事件番号: 昭和33(オ)26 / 裁判年月日: 昭和34年7月2日 / 結論: その他
【結論(判旨の要点)】売買の予約の成立を認めるためには、その前提となる事実について証拠に基づき合理的に認定する必要があり、供述内容が予約ではなく本契約の成立を指している場合には、予約の成立を認めることはできない。 第1 事案の概要:被上告人(原告)が上告人(被告)から土地200坪を単価140円で購入したと主張し、売買一…