判旨
養子縁組の無効原因が存在する場合、利害関係人がその確認を求めることは当然の権利であり、無効原因を知ってから長期間経過後に訴えを提起しても権利の濫用には当たらない。
問題の所在(論点)
養子縁組の無効原因を知りながら長期間放置した後に、利害関係人が提起した無効確認の訴えが、民法1条2項の「権利の濫用」として排斥されるか。
規範
養子縁組に無効原因が存在する場合、その縁組は絶対的に無効である。利害関係人が訴えをもってその無効の確認を求めることは当然の権利であり、無効原因を知った時から長年月が経過した後に提訴したとしても、原則として民法1条2項の権利濫用には当たらない。
重要事実
本件は、養子縁組に絶対的な無効原因が存在する事案である。上告人は、相手方が無効原因の存在を知ってから長年月が経過した後に無効確認の訴えを提起したことを捉え、かかる提訴が権利の濫用に当たり許されない旨を主張して上告した。
あてはめ
養子縁組が無効である場合、その効力は当然に発生しない。利害関係人は、身分関係の公権的な確定を求める法的な利益を有しており、その訴権の行使は身分秩序の是正という適法な目的に基づく。判決文によれば、単に「無効原因を知った時から長年月経過後に訴が提起された」という事実のみでは、権利行使の態様が正当な範囲を逸脱しているとはいえず、権利の濫用を肯定するに足りる特段の事情(信義則上の禁反言に触れるような具体的態様等)は認められない。
結論
本件養子縁組無効確認の訴えの提起は、権利の濫用には当たらず、適法である。したがって、本件上告は棄却される。
実務上の射程
身分行為の無効確認訴訟において、時の経過のみをもって権利濫用や信義則違反を認めることには極めて慎重であるべきことを示した。ただし、事案によっては(追認と評価される事情がある場合など)結論が異なり得るため、本判決は「期間経過のみでは足りない」という消極的規範として解釈するのが実務的である。
事件番号: 昭和32(オ)1076 / 裁判年月日: 昭和33年4月17日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】養子縁組届が当事者の一方の不知の間にその意思に基づかずになされた場合、当該養子縁組をする意思がないものとして、その縁組は無効である。 第1 事案の概要:被上告人との間で養子縁組届(甲12号証)が提出されていたが、実際には被上告人には本件養子縁組をする意思が全くなかった。この養子縁組届は、被上告人が…
事件番号: 昭和59(オ)236 / 裁判年月日: 昭和63年3月1日 / 結論: 棄却
第三者の提起する養子縁組無効の訴えは、養子縁組が無効であることによりその者が自己の身分関係に関する地位に直接影響を受けないときは、訴えの利益を欠く。
事件番号: 昭和37(オ)1235 / 裁判年月日: 昭和38年12月20日 / 結論: 棄却
他の相続人の相続分を排することを主たる目的としなされた養子縁組であつても、親子としての精神的つながりをつくる意思が認められるかぎり無効ではない。
事件番号: 平成30(受)1197 / 裁判年月日: 平成31年3月5日 / 結論: 破棄自判
養子縁組の無効の訴えを提起する者は,養親の相続財産全部の包括遺贈を受けたことから直ちに当該訴えにつき法律上の利益を有するとはいえない。
事件番号: 昭和42(オ)1105 / 裁判年月日: 昭和43年3月15日 / 結論: 棄却
養子縁組無効確認請求事件において、偽造の縁組届に基づき不実の記載がされた戸籍簿に一致する戸籍謄本が証拠として提出されていた場合でも、判決が縁組の効力を判断するにあたつて、右戸籍謄本を認定に用いていないときには、右不実の記載がされた事実は、右判決に対する再審事由とはならない。