判旨
動機の錯誤であっても、その動機が相手方に表示されている限りは法律行為の要素の錯誤となり、その意思表示が無効となることで利害関係を有する第三者は、当事者間の意思表示に錯誤があることを理由に無効を主張できる。
問題の所在(論点)
1. 動機の錯誤が法律行為の要素の錯誤として認められるための要件は何か。 2. 法律行為の当事者以外の第三者が、当事者間の錯誤による無効を主張することができるか。
規範
1. 意思表示の動機に錯誤がある場合であっても、その動機が相手方に表示されているときは、要素の錯誤(現行民法95条1項2号・2項の基礎事由)となり得る。 2. 法律行為の無効(または取消し)を主張することについて法律上の利害関係を有する第三者は、当事者による主張の代位を待たずとも、自らその無効を主張することができる。
重要事実
土地所有者Dと賃貸借契約を締結した上告人が、当該土地を不法に占有していると主張する被上告人に対し、Dの有する妨害排除請求権を代位行使して建物収去土地明渡を求めた。これに対し被上告人は、上告人とDとの賃貸借契約は、上告人が「建物を買い取る」という動機をDに表示していたにもかかわらず実際には買い取らなかったため、要素の錯誤により無効であると反論した。上告人は、第三者である被上告人が当事者間の錯誤を援用することはできないと主張して争った。
あてはめ
1. 上告人はDとの契約際し、本件建物をあわせて買い取る所存であることを明らかに表示していた。この動機は表示されているため、要素の錯誤に該当する。本件ではDに重過失も認められないため、当該賃貸借契約は無効である。 2. 上告人とD間の賃貸借契約の成否は、占有者である被上告人に対し明渡義務の有無という直接の利害関係を及ぼす。したがって、第三者である被上告人は、当該契約の無効を自ら主張する適格を有する。
結論
動機が相手方に表示されていれば要素の錯誤となり、当該契約が有効であることを前提に請求を受ける第三者は、錯誤無効を主張できる。本件賃貸借は無効であり、代位権の行使は認められない。
事件番号: 昭和37(オ)332 / 裁判年月日: 昭和38年3月26日 / 結論: 棄却
(横田裁判官の意見) 特別の事情のないかぎり、要素の錯誤となる。
実務上の射程
現行民法95条の動機の錯誤(基礎事情の錯誤)の明文化後も、意思表示の解釈として重要な射程を有する。特に、債権者代位権等の行使に対し、第三者(債務者の相手方等)が債権の発生原因たる契約の錯誤を援用して拒絶する場面での標準的な判断枠組みとなる。
事件番号: 昭和38(オ)1349 / 裁判年月日: 昭和40年9月10日 / 結論: 棄却
表意者自身において要素の錯誤による意思表示の無効を主張する意思がない場合には、原則として、第三者が右意思表示の無効を主張することは許されない。
事件番号: 昭和35(オ)507 / 裁判年月日: 昭和37年12月25日 / 結論: 棄却
意思表示に際し、動機が表明されなくても、該動機が意思表示の内容とされていないと認めるときは、動機に存する錯誤は意思表示を無効ならしめない。
事件番号: 昭和37(オ)93 / 裁判年月日: 昭和38年5月24日 / 結論: 棄却
甲が乙より土地を賃借した後、右土地の所有権が乙、丙、丁と順次譲渡された場合において、丙は乙の実子であり、丁は乙、丙その他これと血族または姻族関係にある者の同族会社であつて、その営業の実態は乙の個人営業をそのまま引き継いだものであり、乙がその中心となつている等原判示のような事情(原判決理由参照)があるときは、甲の右賃借権…
事件番号: 昭和30(オ)772 / 裁判年月日: 昭和31年1月26日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】債権者が民法423条(当時)に基づき債権者代位権を行使する場合、第三債務者に対して直接自己への給付を求めることができる。 第1 事案の概要:債権者(上告人)が、債務者の第三債務者に対する権利を代位行使し、第三債務者に対して直接自己への支払または給付を求めた事案である(具体的な基礎事実は判決文からは…