意思表示に際し、動機が表明されなくても、該動機が意思表示の内容とされていないと認めるときは、動機に存する錯誤は意思表示を無効ならしめない。
意思表示に際し表明された動機が意思表示の内容とされなかつた場合と該動機に存する錯誤。
民法95条
判旨
動機の錯誤が意思表示の要素の錯誤として法律行為を無効(改正民法では取消し)とするためには、その動機が明示または黙示に法律行為の内容とされている必要がある。動機が表示されても、解釈上法律行為の内容となっていない場合には要素の錯誤とはならない。
問題の所在(論点)
意思表示の動機に錯誤がある場合(動機の錯誤)、いかなる要件を満たせば民法95条(旧法下の無効、現行法下の取消し)にいう「要素の錯誤」として認められるか。特に、動機の表示と契約内容化の関係が問題となる。
規範
動機の錯誤が法律行為の要素の錯誤にあたるためには、①動機が明示または黙示に法律行為の内容とされていること、および②その錯誤がなければ表意者は意思表示をしなかったであろうと認められることが必要である。動機が表示されていても、契約の解釈上、動機が法律行為の内容とされていない場合には、要素の錯誤にはあたらない。
重要事実
上告人(売主)と被上告人国(買主)との間の土地売買契約において、上告人は「賦課される譲渡所得税額が低額になる」という期待(動機)を有していた。国側は税務署と折衝して可能な限り低額にするよう努力する旨を諒解していたが、実際には上告人の期待通りには減額されなかった。上告人は、税額の低減が契約の動機であり、これに錯誤があったため売買契約は無効であると主張して争った。
事件番号: 昭和46(オ)1158 / 裁判年月日: 昭和47年11月28日 / 結論: 棄却
土地の売買契約において、買主が代金を五年間にわたつて分割支払い、その完済後売主が所有権移転登記をなし、その支払期間中の公租公課を買主が負担する旨約された場合には、右買主の公租公課負担義務は付随義務とはいえず、売主はこの義務不履行を理由に契約を解除することができる。
あてはめ
本件では、国側が税務署と折衝し税額を低く抑えるよう「努力する旨の諒解」があったに過ぎない。この言明は、上告人が主張するような「税額が低額にならないならば契約を締結しない」というほどの強い効力を持つものではなく、本件売買契約の内容にまでなっていたとは認められない。したがって、動機が表示されていたとしても、それが意思表示の内容(契約の内容)に組み込まれていたとはいえないため、要素の錯誤は成立しない。
結論
動機が法律行為の内容とされていたとは認められないため、要素の錯誤による無効(現行法上は取消し)は認められず、売買契約は有効である。
実務上の射程
動機の錯誤に関するリーディングケースである。答案上は「動機の表示」だけでなく「内容化(契約の合意内容となること)」まで必要であることを示す際に引用する。現行民法95条2項の「その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていたとき」という規定の解釈において、判例の「内容とされていたか」という規範は、単なる主観的な動機の表明を超えて合意の基礎となったかという評価において今なお重要な指標となる。
事件番号: 昭和30(オ)520 / 裁判年月日: 昭和32年11月26日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】動機の錯誤であっても、その動機が相手方に表示されている限りは法律行為の要素の錯誤となり、その意思表示が無効となることで利害関係を有する第三者は、当事者間の意思表示に錯誤があることを理由に無効を主張できる。 第1 事案の概要:土地所有者Dと賃貸借契約を締結した上告人が、当該土地を不法に占有していると…
事件番号: 昭和37(オ)1157 / 裁判年月日: 昭和39年4月17日 / 結論: 棄却
債権者は、債務者に代位してその債務者に属する代位権を行使することができる。
事件番号: 昭和37(オ)332 / 裁判年月日: 昭和38年3月26日 / 結論: 棄却
(横田裁判官の意見) 特別の事情のないかぎり、要素の錯誤となる。
事件番号: 昭和37(オ)1458 / 裁判年月日: 昭和38年10月18日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】意思表示の動機が相手方に表示されていたとしても、それだけで直ちに法律行為の要素(内容)になるわけではなく、諸般の事情に照らして契約の重要な内容となっていたか否かによって判断される。 第1 事案の概要:本件土地売買契約は、買主側から当該土地を大井権現消防署の敷地の候補地としたい旨の話が出されたことを…