(横田裁判官の意見) 特別の事情のないかぎり、要素の錯誤となる。
建物の売買において敷地の借地権の移転につき買主に錯誤があつた場合、これが要素の錯誤にあたるか動機の錯誤にすぎないかが争われた事例。
民法95条
判旨
建物売買において敷地使用権の存在は原則として契約の要素となるが、当事者が敷地使用権の有無を度外視して取引を行ったなどの特別の事情がある場合には、その欠如は錯誤(要素の錯誤)に当たらない。
問題の所在(論点)
建物売買において、売主が敷地使用権を有していないことが、民法95条(改正前)にいう「法律行為の要素」の錯誤に該当するか。
規範
建物とその敷地の所有者が異なる場合における建物の売買は、原則として建物とともに敷地使用権を移転させる趣旨を含むため、敷地使用権の存在は契約の要素(民法改正前の95条参照)となる。ただし、①買主が建物を移築・取り壊す目的であり敷地上に存続させる意図がないことが明らかな場合、または②敷地上に存続させる意図であっても、当事者が敷地の使用権限の有無を度外視して取引を行った場合など、特別の事情がある場合には、例外的に契約の要素とはならない。
重要事実
上告人(買主)は、訴外D所有の本件建物を27万円で購入した。しかし、Dは本件土地(被上告人所有)の敷地使用権を有していなかった。売買の際、Dの法定代理人Eおよび上告人は、建物の所有権を取得すれば当然に土地も使用できると考え、土地所有者を確認せず、敷地に関する話し合いも一切行わなかった。上告人は、敷地使用権がないことは「要素の錯誤」にあたり売買は無効であると主張した。
事件番号: 昭和30(オ)520 / 裁判年月日: 昭和32年11月26日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】動機の錯誤であっても、その動機が相手方に表示されている限りは法律行為の要素の錯誤となり、その意思表示が無効となることで利害関係を有する第三者は、当事者間の意思表示に錯誤があることを理由に無効を主張できる。 第1 事案の概要:土地所有者Dと賃貸借契約を締結した上告人が、当該土地を不法に占有していると…
あてはめ
本件では、売主の法定代理人Eと買主である上告人は、建物の所有権取得により当然に土地を使用できると誤信していた。しかし、両者は土地所有者の確認すら怠り、敷地の利用関係について一切の協議を行わずに取引を進めている。このような態様は、敷地使用権の有無や内容を具体的に考慮せず、いわば「度外視して取引を行った」ものといえる。したがって、前述の規範における「特別の事情」がある場合に該当し、敷地使用権の欠如は本件売買契約の要素とはならない。
結論
本件建物の売買は錯誤により無効であるとはいえない。上告を棄却する。
実務上の射程
動機の錯誤が問題となる場面で、どのような場合にその動機が「要素」となるかの判断枠組みを示す。特に不動産取引において、客観的に重要な事項であっても当事者がそれを軽視・度外視して合意した場合には、錯誤取消し(無効)が否定される余地があることを示唆している。答案上は、錯誤の成立要件における「要素性」の判断において、取引の具体的態様から特別の事情を検討する際に引用すべき判例である。
事件番号: 昭和37(オ)365 / 裁判年月日: 昭和37年9月28日 / 結論: 棄却
所有権の行使に民法第一条第三項の適用はあるが、所有権の取得に同条項の適用はない。
事件番号: 昭和36(オ)378 / 裁判年月日: 昭和37年2月16日 / 結論: 棄却
経済的変動により賃料額が不相当となつたときは、協定のうえこれを増減することができるし、期間を更新することもできる旨の約款があつても、その賃貸借を一時使用のためのものと認定できないことはない。
事件番号: 昭和37(オ)93 / 裁判年月日: 昭和38年5月24日 / 結論: 棄却
甲が乙より土地を賃借した後、右土地の所有権が乙、丙、丁と順次譲渡された場合において、丙は乙の実子であり、丁は乙、丙その他これと血族または姻族関係にある者の同族会社であつて、その営業の実態は乙の個人営業をそのまま引き継いだものであり、乙がその中心となつている等原判示のような事情(原判決理由参照)があるときは、甲の右賃借権…
事件番号: 昭和36(オ)297 / 裁判年月日: 昭和36年7月20日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】民法388条の法定地上権が成立するためには、抵当権設定当時において土地の上に建物が存在することが不可欠である。 第1 事案の概要:上告人(被告)個人の所有名義となっている建物について、被上告人がその権利を主張した。これに対し、上告人は法定地上権の成立や権利濫用等を主張して争った。原審は、挙示された…