判旨
入会権行使の合意による一時停止は入会権自体の存否に影響せず、山林での立木採取等の慣習に基づき、当該立木が入会権者の共同所有に属すると認められる場合には、その侵害に対し不当利得返還請求が認められる。
問題の所在(論点)
1. 入会権行使を一時停止する合意の成立が、入会権自体の存否に影響を与えるか。 2. 地盤の所有権帰属が不明確な場合であっても、慣習に基づき立木の共同所有を認め、不当利得返還請求を行うことができるか。
規範
1. 入会権の行使を一時停止する合意がなされても、そのことのみをもって直ちに入会権自体が消滅し、またはその存否に影響を及ぼすものではない。 2. 地盤の所有権が部落有であるか部落民の共有であるかを問わず、特定の山林において立木を採取・補植する慣習が存する場合、当該立木は入会権者の共同所有に属すると解される。
重要事実
対象となる山林(係争山林)において、長年、部落民が立木を採取し、または補植する慣習が存在していた。明治43年頃に入会権の行使を一時停止する合意がなされたが、その後、入会権の対象たる物件(立木)について、一部の者がその利益を独占する形となったため、他の入会権者(被上告人ら)が不当利得返還請求(民法703条)を求めて提訴した。
あてはめ
1. 入会権行使の一時停止合意は、あくまで行使の態様に関する制限に過ぎず、権利自体の消滅を意味しない。したがって、明治43年頃の合意後も入会権は存続している。 2. 証拠資料によれば、当該山林では古くから部落民による立木採取等の慣習が存した事実が認められる。この慣習の下では、立木は入会権の対象たる物件として入会権者らの共同所有に属する。地盤の所有権が誰に属するかを厳密に断定せずとも、立木の共同所有関係は認められる。 3. 共同所有に属する立木から生じた利益を上告人が保持することは法律上の原因がなく、被上告人らに損失を与えたといえる。
結論
入会権行使の一時停止合意は入会権を消滅させない。慣習に基づき立木の共同所有が認められる以上、これによる利益の独占に対し不当利得返還請求権を認めた原審の判断は正当である。
事件番号: 平成13(受)505 / 裁判年月日: 平成15年4月11日 / 結論: 破棄自判
入会権者らの総有に属する入会地を売却するに当たり入会権者らが入会権の放棄をした場合であっても,入会権者らが入会地の管理運営等のための管理会を結成し,その規約において入会地の処分等を管理会の事業とし,入会地の売却が管理会の決議に基づいて行われ,売却後も入会権者らの有する他の入会地が残存し,管理会も存続しているなど判示の事…
実務上の射程
入会権の「権利そのもの」と「行使の態様」を区別する実務上重要な判断である。答案上では、入会権の存否が争点となる場面で、一時的な不行使や停止合意が権利消滅事由にならないことを示す論拠として活用できる。また、地盤の所有権が不明確でも、入会慣習(採取・補植等)の事実から収益対象の共同所有を導く構成として有用である。
事件番号: 昭和29(オ)769 / 裁判年月日: 昭和32年9月13日 / 結論: 破棄差戻
入会地のある部分を「分け地」と称して部落民のうちの特定の個人に分配し、その分配を受けた個人がこれを独占的に使用収益し、自由に譲渡することが許される慣行が存するときは、特段の事情のない限り、「分け地」については入会権の存在を否定すべきである。