判旨
裁判上の自白の撤回は、自白が真実に反し、かつ錯誤に基づいたものである場合に認められるが、相手方の主張の変遷などの弁論の全趣旨に照らし、錯誤が肯認できる場合にはその取消しは有効である。
問題の所在(論点)
当事者が一度行った裁判上の自白について、事後に錯誤を理由として撤回(取消し)を認めるための要件、特に弁論の全趣旨に基づく錯誤の認定の可否が問題となる。
規範
裁判上の自白(民訴法179条)が成立した場合、当事者は原則としてこれを撤回できない。しかし、(1)自白が真実に反すること、および(2)錯誤に基づいたことの証明がある場合には、例外的に撤回が認められる。この錯誤の有無については、自白後の当事者の主張の変遷や相手方の主張内容など、弁論の全趣旨を総合して判断することができる。
重要事実
第一審原告(被上告人)は、当初、自ら山林を被告らに売り渡し、後に契約を解除したが受領代金10万円を未返還である旨を釈明(自白)した。しかし控訴審において、実際には亡父が売買の相手方であったことが判明し、被告側もそれを認める主張を行うに至った。これを受け、原告は当初の自白が錯誤に基づくものであるとして撤回を申し立てた。
あてはめ
本件では、当初原告自身が行ったとした売買について、被告自身が後に「亡父を相手方として締結した」と主張を改めている。この経過に照らせば、原告が当初自分で行ったと述べた自白は真実に反し、かつ錯誤に基づくものであったことが弁論の全趣旨から肯認できる。したがって、原判決が自白の取消しを有効と認めた判断は正当である。
結論
自白の撤回を認めた原審の判断は相当であり、上告を棄却する。
実務上の射程
事件番号: 昭和36(オ)576 / 裁判年月日: 昭和36年11月30日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】裁判上の自白の撤回は、自白が真実に反し、かつ錯誤に基づくことが証明された場合に限り許される。ただし、自白が真実に反することの証明があるときは、反証がない限り錯誤によるものと事実上推定される。 第1 事案の概要:被上告人(原告)らは、本件山林の譲渡担保契約の内容に関して一定の自白を行っていた。しかし…
自白の撤回要件(真実に反すること・錯誤)のうち、「錯誤」の認定において、相手方の主張の変遷等の「弁論の全趣旨」を重視した事例である。答案上は、撤回を認めるべき場面で、相手方の矛盾した挙動や新証拠の顕出と矛盾する自白が残っている場合の理屈付けとして活用できる。
事件番号: 昭和34(オ)880 / 裁判年月日: 昭和37年6月12日 / 結論: 棄却
(略)
事件番号: 昭和34(オ)632 / 裁判年月日: 昭和35年9月8日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】裁判上の自白の取消しには、自白が真実に反し、かつ錯誤に基づいたものであることの証明を要するが、自白が真実に反することが証明された場合には、特段の事情がない限り、錯誤によるものと推認される。 第1 事案の概要:被上告人(原告)は、本件不動産の所有権に基づき、上告人(被告)らに対して所有権移転登記の抹…
事件番号: 昭和38(オ)1208 / 裁判年月日: 昭和39年10月20日 / 結論: 破棄差戻
原告主張の甲売買を被告が乙売買と混同、錯誤して自白したものと認定した場合において、甲乙間には成立日時において九ケ月、目的土地の面積において二倍、代金において一一倍の開きがあるのみならず買受人も異る事情にあるときには、右錯誤の認定は経験則に照らし肯認しえない。
事件番号: 昭和25(オ)376 / 裁判年月日: 昭和28年10月20日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】裁判上の自白の取消しは、自白した事実が真実に反し、かつ、その自白が錯誤に基づいたものであることが証明された場合には、有効に認められる。 第1 事案の概要:上告人は、原審が被上告人による自白の取消しを認め、自白と異なる事実を基礎として裁判を行ったことは、当事者の主張しない事実に基づいたものであり不当…