原告主張の甲売買を被告が乙売買と混同、錯誤して自白したものと認定した場合において、甲乙間には成立日時において九ケ月、目的土地の面積において二倍、代金において一一倍の開きがあるのみならず買受人も異る事情にあるときには、右錯誤の認定は経験則に照らし肯認しえない。
自白が錯誤にもとづきなされたとの事実認定が経験則に違反するとされた事例。
民訴法257条,民訴法185条
判旨
裁判上の自白の撤回が認められるための要件である「錯誤」の認定には、経験則に照らした合理性が必要であり、契約の内容や当事者が著しく異なる別個の事実と混同したとする認定には、特段の事情の裏付けを要する。
問題の所在(論点)
裁判上の自白の撤回要件である「錯誤」の認定において、内容が著しく異なる別個の事実との混同を認めることが経験則上許されるか(民事訴訟法における自白の拘束力からの解放の限界)。
規範
裁判上の自白を撤回するためには、自白の内容が真実に反し、かつ、それが錯誤に基づくものであることを要する。ここでいう「錯誤」の有無は、自白の対象となった事実と撤回理由とされる事実との同一性や類似性、契約の時期、目的物、対価、当事者等の諸要素を対照し、経験則に照らして合理的に説明可能なものでなければならない。
重要事実
上告人らは、被上告人との間で昭和23年2月に原野約9.3反を代金約3.3万円で買い受ける契約を締結したと主張した。これに対し、被上告人は一旦自白したが、10年余り経過した後に撤回を申し立てた。原審は、被上告人が昭和22年5月に約4町歩を3千円で売り渡した(後に合意解除された)別契約と本件契約を混同し、錯誤によって自白したと認定した。
事件番号: 昭和37(オ)1458 / 裁判年月日: 昭和38年10月18日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】意思表示の動機が相手方に表示されていたとしても、それだけで直ちに法律行為の要素(内容)になるわけではなく、諸般の事情に照らして契約の重要な内容となっていたか否かによって判断される。 第1 事案の概要:本件土地売買契約は、買主側から当該土地を大井権現消防署の敷地の候補地としたい旨の話が出されたことを…
あてはめ
本件における自白対象の契約と混同したとされる過去の契約を比較すると、成立時期において約9ヶ月、面積において約2倍、代金において約11倍の著しい開きがある。さらに買受人という契約の重要主体も異なっている。このような顕著な差異がある二つの契約を、売渡人本人が混同して自白することは、特段の事情がない限り経験則上考え難い。原審は、この「特段の事情」を具体的に認定することなく、安易に混同による錯誤を認めており、論理的整合性を欠く。
結論
特別な事情を認定せずに錯誤を認め、自白の撤回を有効とした原判決は、経験則に照らし肯認できない。原判決を破棄し、差し戻すべきである。
実務上の射程
自白の撤回における「錯誤」の立証において、類似事実の存在を主張するだけでは足りず、客観的な差異を凌駕するほどの主観的混同の合理性を基礎付ける事実(特段の事情)を摘示・評価する必要があることを示す。答案上は、撤回の可否が問題となる場面で、真実反実性と錯誤の有無を分節して検討し、後者の認定において経験則を用いた当てはめを行う際の指標となる。
事件番号: 昭和27(オ)108 / 裁判年月日: 昭和28年10月22日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】特定の条件が成就するまでの間、一時的に所有権を移転させる合意は仮装のものに過ぎず、真実の所有権移転の効力は生じない。また、他主占有権原に基づき、かつ善意等の要件を欠く場合には、取得時効は成立しない。 第1 事案の概要:被上告人と訴外Dとの間で、本件不動産の所有権移転契約が締結された。しかし、その実…
事件番号: 昭和30(オ)503 / 裁判年月日: 昭和31年12月11日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】裁判上の自白の撤回は、自白が真実に反し、かつ錯誤に基づいたものである場合に認められるが、相手方の主張の変遷などの弁論の全趣旨に照らし、錯誤が肯認できる場合にはその取消しは有効である。 第1 事案の概要:第一審原告(被上告人)は、当初、自ら山林を被告らに売り渡し、後に契約を解除したが受領代金10万円…
事件番号: 昭和33(オ)258 / 裁判年月日: 昭和35年2月9日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】原審が行った証拠の取捨選択および事実認定が適法である限り、上告審においてこれと異なる事実を主張して原判決を非難することは、上告理由にならない。 第1 事案の概要:上告人らは、原審が認定した売買の事実について、証拠の取捨選択や事実認定に誤りがあるとして、原判決の違法を主張し、上告を申し立てた。なお、…
事件番号: 昭和33(オ)943 / 裁判年月日: 昭和35年11月17日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】裁判上の自白の撤回は、その自白が真実に反し、かつ、錯誤に基づくものであるときは、適法に認められる。また、付随的義務の不履行を理由とする売買契約の解除は認められない。 第1 事案の概要:本件土地の売買において、履行期等に関する特約の有無が争点となった。控訴代理人は当初、特約が存在する旨の準備書面を提…