判旨
抵当権者が優先弁済権を有する債権であっても、法律上の根拠に基づき優先的に金員を収納し得る立場にある者に対しては、不当利得返還請求を行うことはできない。
問題の所在(論点)
抵当権者が存在する状況において、第三者が目的物から生じた金員を収納した場合に、当該第三者に「法律上の原因」が認められ、不当利得の成立が否定されるか。
規範
不当利得(民法703条)の成立要件である「法律上の原因」がないとは、利得者が受益を保持すべき正当な根拠が欠如していることをいう。特定の金員を他の債権者に優先して収納し得る法的な優先順位や権限が認められる場合には、その収納による受益には法律上の原因があるものと解される。
重要事実
上告人は対象物件に対して抵当権を有していた。一方で、被上告人は当該物件から生じた金員を収納した。上告人は、自らの抵当権に基づく優先弁済権を侵害されたとして、被上告人が得た金員について不当利得返還を請求した。しかし、第一審および原審では、被上告人が上告人の抵当権付債権に優先して当該金員を収納し得る立場にあることが事実として確定されていた。
あてはめ
確定した事実によれば、被上告人は本件金員を上告人の抵当権付債権に優先して収納し得る立場にあった。このような優先的受領権限を有する者が金員を取得することは、客観的な法秩序に照らして正当な利益の保持といえる。したがって、被上告人が当該金員を収納したことについて、不当利得の構成要件である「法律上の原因がない」という点には該当しないと判断される。
結論
被上告人の金員収納には法律上の原因があるため、不当利得は成立せず、上告人の請求は棄却される。
実務上の射程
本判決は、不当利得における「法律上の原因」の有無を、債権者間の優先関係(実体法上の優先順位)に基づいて判断する姿勢を示している。答案上では、抵当権と他の債権(租税公課や他の優先特権等)が競合する場合の不当利得返還請求の可否を論ずる際、実体法上の優先劣後関係を確定させた上で、「法律上の原因」の存否に結びつける論法として利用できる。
事件番号: 昭和61(オ)1194 / 裁判年月日: 平成3年9月3日 / 結論: 破棄差戻
債務者所有の甲不動産と第三者所有の乙不動産とが共同抵当の関係にある場合において、債権者が甲不動産に設定された抵当権を放棄するなど故意又はけ怠によりその担保を喪失又は減少したときは、その後の乙不動産の譲受人も債権者に対して民法五〇四条に規定する免責の効果を主張することができる。