抵当権者は、債権又は優先権を有しないのに配当を受けた債権者に対して、その者が配当を受けたことによって自己が配当を受けることができなかった金銭相当額の金員の返還を請求することができる。
債権又は優先権を有しないのに配当を受けた債権者に対する抵当権者からの不当利得返還請求の可否
民法703条,民事執行法84条1項,民事執行法85条,民事執行法89条
判旨
抵当権者は、配当期日に配当異議の申出をしなかった場合でも、債権や優先権がないのに配当を受けた者に対し、不当利得返還請求が可能である。配当の実施は配当金の帰属を確定させるものではないため、法律上の原因のない利得が成立する。
問題の所在(論点)
不動産競売の配当手続において配当異議の申出(民執法90条等)をしなかった抵当権者が、実体法上の権利を有しない受領者に対し、不当利得返還請求(民法703条)をなし得るか。配当表の確定に、実体法上の権利関係を確定させる効果が認められるか。
規範
1. 抵当権者は、抵当権の効力として抵当不動産の代金から優先弁済を受ける権利を有する。2. 配当期日において配当異議の申出がなされず、配当表に従って配当が実施されたとしても、その実施は係争配当金の帰属を実体法上確定するものではない。3. したがって、本来優先弁済を受けるべき者が配当を受けられなかった場合、配当を受けた者に「法律上の原因」があるとはいえず、不当利得(民法703条)が成立する。
重要事実
抵当権を有する原告(上告人)が、不動産競売事件の配当手続において配当異議の申出を行わなかった。その後、実体法上の債権または優先権を有しないにもかかわらず配当を受けた他の債権者に対し、自己が配当を受けることができなかった金銭相当額の返還を求めて不当利得返還請求訴訟を提起した。
あてはめ
抵当権者は実体法上の優先弁済受領権を有しており、本来であれば配当金を取得すべき立場にある。他の債権者が債権等の実体上の根拠なく配当を受けた場合、当該抵当権者の取得すべき財産によって利益を受け、抵当権者に損失を及ぼしたといえる。また、配当手続による配当実施は金銭の帰属を最終的に確定させるものではないため、配当表に基づいた受領であっても実体法上の正当性は付与されず、利得の「法律上の原因」は認められない。
結論
抵当権者は、配当異議の申出をしなかった場合であっても、不当利得返還請求をすることができる。
実務上の射程
配当手続における失念や手続上の不備があった場合でも、実体法上の権利関係に基づき不当利得で救済されることを認めた重要判例である。答案上は、配当手続の完結が不当利得請求の妨げにならないことを論証する際に、本判例のロジック(配当の実施は帰属を確定しない)を用いる。抵当権者以外の一般債権者の場合にも同様の理屈が応用され得る。
事件番号: 昭和62(オ)1057 / 裁判年月日: 昭和63年7月1日 / 結論: 破棄自判
債権者が第三者所有の不動産の上に設定を受けた抵当権が不存在である.にもかかわらず、右抵当権の実行により第三者が不動産の所有権を喪失したときは、第三者は、売却代金から弁済金の交付を受けた右債権者に対し不当利得返還請求権を有する。