判旨
行政庁が一度行った農地賃貸借解約許可処分は、当該許可に基づき解約の申入れがなされ、既に解約の効力が生じている場合には、私法上の形成効果が確定しているため、もはや行政庁においてこれを取り消すことはできない。
問題の所在(論点)
農地賃貸借の解約許可処分がなされ、それに基づき既に解約の効力が生じている場合において、行政庁が事後的に当該処分を取り消すことができるか。また、行政機関内部の補助者の過失を理由に処分の無効を主張できるか。
規範
行政処分の取消しの可否は、処分の性質やそれに基づく法的効果の進展状況を考慮して判断すべきである。特に、行政処分が私法上の法律関係を形成・確定させる性質を有する場合、その処分に基づき既に新たな権利義務関係が具体的に発生・確定した後は、法的安定性の観点から、行政庁による自由な取消しは制限される。
重要事実
上告人は農地法(旧農地調整法)に基づき、知事から農地賃貸借の解約許可を受けた。上告人はこの許可に基づき、被上告人に対して解約の申入れを行った。これにより、私法上の賃貸借契約の終了という法的効果が既に発生していた。その後、行政側が指令書の作成過程等における内部的な過失(浄書・発送等のミス)を理由に、当該処分の無効または取消しを主張した事案である。
あてはめ
第一に、指令書の作成等に携わる浄書係や発送係は知事の指揮監督下にある内部組織であり、第三者ではない。したがって、これら職員の過失は行政機関自身の過失にほかならず、自らの過失を理由に無効を主張することは許されない。第二に、本件の許可処分は、農地の賃貸借を解約する権利を付与・補完する性質を有する。被上告人がこの許可を信頼して解約の申入れを行い、既に解約という私法上の効果が確定している以上、法的安定性を保護する必要がある。ゆえに、この段階に至って処分を取り消すことは、処分の性質および現状に照らし認められない。
結論
行政処分(解約許可)に基づき既に私法上の解約の効力が生じている場合には、行政庁は当該処分を取り消すことができない。本件上告は棄却される。
事件番号: 昭和30(オ)674 / 裁判年月日: 昭和31年4月17日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】行政処分の決定日時の表示に誤りがあったとしても、実情調査等の必要な手続を経た上で行われたものであれば、直ちに当該処分を無効ならしめる瑕疵とはならない。 第1 事案の概要:上告人は、農地法に基づく許可申請を行ったが、被上告人(行政庁)により不許可処分を受けた。この不許可決定について、被上告人は村農業…
実務上の射程
行政処分の職権取消しの限界を示す。特に農地法上の許可のように、私法上の形成行為を補完する性質の処分において、既に私法上の効果が確定した後の取消しを否定する文脈で活用できる。信賴保護や法的安定性の観点から取消しを制限する理論構成の素材となる。
事件番号: 昭和36(オ)1391 / 裁判年月日: 昭和38年4月30日 / 結論: 棄却
農地賃貸人に自作の意思があると認めた知事の認定に誤りがあつたとしても、賃借人が解約承諾書に捺印している事実その他原審認定の事実関係のもとでは、知事の本件農地賃貸借解約の許可処分に明白な瑕疵があるとはいえず、これを無効とすべき理由はない。
事件番号: 昭和36(オ)607 / 裁判年月日: 昭和37年2月15日 / 結論: 棄却
原審認定の事実関係のもとで地主主張の反別に相応する小作料を支払わず、それより狭い反別に相応する小作料を弁済供託したからといつて小作人の行為は、農地法第二〇条第二項一号の信義に反する行為にあたらない。
事件番号: 昭和28(オ)841 / 裁判年月日: 昭和32年3月7日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】建物賃貸借において、その契約が一時使用を目的とするものであると認められる場合には、借地借家法(旧借家法)の更新拒絶に関する正当事由等の規定は適用されない。 第1 事案の概要:上告人(賃借人)と被上告人(賃受人)との間において、建物の賃貸借契約が締結されていたが、原審はその成立経緯や判示の諸事情を考…
事件番号: 昭和40(行ツ)17 / 裁判年月日: 昭和41年12月23日 / 結論: 棄却
農地の所有者から賃借権等の設定を受け現に当該農地を耕作している者であつても、右賃借権等の設定について農業委員会の許可を受けていない以上、当該農地の所有権移転につき知事が第三者に与えた許可処分の無効確認を求める原告適格を有しない。