原審認定の事実関係のもとで地主主張の反別に相応する小作料を支払わず、それより狭い反別に相応する小作料を弁済供託したからといつて小作人の行為は、農地法第二〇条第二項一号の信義に反する行為にあたらない。
農地法第二〇条第二項一号の信義に反する行為にあたらないとされた事例
判旨
農地の賃借人が、賃借人の主張する面積より少ない面積に応じた小作料を供託したとしても、直ちに農地法20条2項1号の「信義に反する行為」には該当しない。
問題の所在(論点)
賃借人が賃貸人の主張する面積よりも少ない面積に基づき計算した小作料を供託した場合、農地法20条2項1号の「賃借人が信義に反する行為をしたとき」に該当するか。
規範
農地法20条2項1号(現行18条2項1号)にいう「信義に反する行為」に該当するか否かは、単に義務の不履行があるという事実のみならず、賃貸借関係の継続を著しく困難にするような信頼関係の破壊が認められるかという観点から判断すべきである。
重要事実
賃貸人(上告人)は、農地の面積が一反五畝二八歩であると主張し、それに見合う小作料の支払いを求めた。これに対し、賃借人Dは一反二畝歩に相応する面積であると主張し、その面積分に相当する小作料を弁済供託した。賃貸人はこの小作料の不足を理由に、農地法20条2項1号に基づき解約を申し入れた。
あてはめ
本件において、賃借人Dは全く支払いを拒絶したわけではなく、自らが正当と信ずる面積(一反二畝歩)に応じた小作料を弁済供託という適法な手段で履行している。賃貸人が主張する面積(一反五畝二八歩)との差異は僅かであり、面積の解釈に争いがある中で自己の義務を履行しようとする姿勢が認められる。このような事情の下では、賃貸人に対する背信性が顕著であるとはいえず、賃貸借関係の基礎となる信頼関係を破壊するものとは評価できない。
事件番号: 昭和36(オ)1391 / 裁判年月日: 昭和38年4月30日 / 結論: 棄却
農地賃貸人に自作の意思があると認めた知事の認定に誤りがあつたとしても、賃借人が解約承諾書に捺印している事実その他原審認定の事実関係のもとでは、知事の本件農地賃貸借解約の許可処分に明白な瑕疵があるとはいえず、これを無効とすべき理由はない。
結論
賃借人の行為は、農地法20条2項1号にいう信義に反する行為には該当しない。
実務上の射程
農地賃貸借の解除における「信義に反する行為」が、民法上の信頼関係破壊の法理と同様の枠組みで判断されることを示唆している。賃料の一部不払いや計算根拠の相違がある場合でも、供託等の誠実な履行の試みがあれば解除は制限される方向で働く。答案上では、形式的な債務不履行があっても直ちに解除権は発生せず、背信性の有無を実質的に検討する際の根拠として活用できる。
事件番号: 昭和30(オ)674 / 裁判年月日: 昭和31年4月17日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】行政処分の決定日時の表示に誤りがあったとしても、実情調査等の必要な手続を経た上で行われたものであれば、直ちに当該処分を無効ならしめる瑕疵とはならない。 第1 事案の概要:上告人は、農地法に基づく許可申請を行ったが、被上告人(行政庁)により不許可処分を受けた。この不許可決定について、被上告人は村農業…
事件番号: 昭和36(オ)1155 / 裁判年月日: 昭和37年7月19日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】賃貸借契約における賃借人の債務不履行を理由とする解除が認められるためには、単なる履行遅滞のみでは足りず、その不履行が賃貸人と賃借人との間の信頼関係を破壊し、契約の継続を困難にする程度に至っていることを要する。 第1 事案の概要:上告人(賃貸人)は、訴外D(賃借人)が小作料を支払わなかったことを理由…
事件番号: 昭和30(オ)417 / 裁判年月日: 昭和31年4月17日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】行政庁が一度行った農地賃貸借解約許可処分は、当該許可に基づき解約の申入れがなされ、既に解約の効力が生じている場合には、私法上の形成効果が確定しているため、もはや行政庁においてこれを取り消すことはできない。 第1 事案の概要:上告人は農地法(旧農地調整法)に基づき、知事から農地賃貸借の解約許可を受け…