昭和二一年頃から同二三年頃までの間、小作人が非農家である知人数名の食糧難に同情し、その懇請を容れ、地主に無断で、小作地の一部を同人らに無償で転貸しこれを裏作(蚕豆の栽培)させたからといつて、右行為が農地調整法第九条第一項にいわゆる賃借人の「信義ニ反シタル行為」にあたるものとはいえない。
小作人の小作地無断転貸が農地調整法第九条第一項にいわゆる「信義ニ反シタル行為」にあたらない一事例
農地調整法9条1項
判旨
農地の無断転貸がなされた場合であっても、その事情の如何を問わず常に農地調整法9条1項(現・農地法18条1項)にいう「信義に反した行為」に該当するわけではない。使用貸借であることや転貸当時の事情に照らし、許可を欠き罰則に抵触する可能性があるとしても、同条項の制限に該当しない場合がある。
問題の所在(論点)
農地の無断転貸が行われた場合、それが直ちに農地調整法9条1項(現・農地法18条1項)の「信義に反した行為」に該当し、賃貸人による解約制限を解除させる事由となるか。
規範
小作関係が人的信頼関係を基調とするものであるとしても、小作地の無断転貸という事実のみをもって、直ちに農地法上の解約制限を解除する「信義に反した行為」に該当すると断ずることはできない。転貸の態様が使用貸借であるか等の実態や、転貸当時の具体的諸事情を総合的に考慮し、信頼関係を破壊するに足りる不信行為といえるか否かを個別具体的に判断すべきである。
重要事実
小作人が賃貸人(地主)に無断で小作地を第三者に転貸した。この転貸は使用貸借の形式で行われており、また農地委員会等の公的な承認や許可を得ていない状態であった。賃貸人は、この無断転貸が農地調整法9条1項(現・農地法18条1項)に定める、賃貸人による解約の申し入れを正当化する「信義に反した行為」に該当すると主張して、小作契約の解除(または解約)の有効性を争った。
事件番号: 昭和26(オ)257 / 裁判年月日: 昭和34年3月5日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】農地法(旧農地調整法)上の「一時賃貸借」に該当する場合、賃貸借の解約等について知事の許可を要せず、便宜的になされた許可における正当事由の有無も問題とならない。 第1 事案の概要:農地の賃借人と賃貸人の間において、当該賃貸借契約が一時的なものであると認定された事案。知事は便宜的に当該賃貸借に関する許…
あてはめ
本件における転貸は、対価を伴わない「使用貸借」という態様で行われていた。また、転貸に至る当時の諸事情を考慮すると、仮に農地法上の許可を欠き、行政罰の対象となり得る瑕疵があるとしても、私法上の信頼関係を根底から破壊するような「信義に反した行為」とまで評価することはできない。したがって、無断転貸という形式的事実のみをもって直ちに解約を認めることは相当ではない。
結論
小作地を無断転貸したとしても、常に当然に「信義に反した行為」に該当するとはいえず、本件のような使用貸借等の事情下では同条項の該当性は否定される。上告棄却。
実務上の射程
農地法上の解約制限(現18条1項)の例外規定に関する重要判例である。無断転貸=解除可能という形式的判断を否定し、民法上の信頼関係破壊の法理に近い実質的な判断枠組みを農地法関係にも導入した点に意義がある。答案上は、賃貸借の無断転貸・譲渡における「信頼関係破壊の法理(最判昭28・9・25等)」の農地版として位置づけ、個別事情(使用貸借か否か、背信性の程度)へのあてはめに活用する。
事件番号: 昭和26(オ)384 / 裁判年月日: 昭和27年11月7日 / 結論: 棄却
昭和二二年法律第二四〇号による農地調整法改正前においては、農地賃貸借の合意解約について、同法第九条第三項による知事の許可を要しない。
事件番号: 昭和36(オ)607 / 裁判年月日: 昭和37年2月15日 / 結論: 棄却
原審認定の事実関係のもとで地主主張の反別に相応する小作料を支払わず、それより狭い反別に相応する小作料を弁済供託したからといつて小作人の行為は、農地法第二〇条第二項一号の信義に反する行為にあたらない。
事件番号: 昭和25(オ)59 / 裁判年月日: 昭和26年3月8日 / 結論: 棄却
昭和二〇年法律第六四号による改正前の農地調整法第九条第一項及び第三項は、合意によつて賃貸借契約を解約する場合には適用がない。
事件番号: 昭和36(オ)1155 / 裁判年月日: 昭和37年7月19日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】賃貸借契約における賃借人の債務不履行を理由とする解除が認められるためには、単なる履行遅滞のみでは足りず、その不履行が賃貸人と賃借人との間の信頼関係を破壊し、契約の継続を困難にする程度に至っていることを要する。 第1 事案の概要:上告人(賃貸人)は、訴外D(賃借人)が小作料を支払わなかったことを理由…