判旨
不動産の処分禁止仮処分命令が登記嘱託書の綴込帳編綴により登記と同一の効力を生じた後、登記官の過誤等で当該登記が移記されず、又は登記簿が閉鎖されたとしても、既に生じた仮処分の対抗力は失われない。
問題の所在(論点)
登記簿焼失後の特別手続により仮処分の対抗力が生じた後、登記官の過誤等によって当該登記が新登記簿に反映されなかった場合、仮処分の対抗力は失われるか。また、所有権回復登記の編綴がない状態でなされた仮処分嘱託書の編綴は有効か。
規範
戦時登記特別手続令(当時)に基づく申請書綴込帳への編綴により、登記と同一の効力が生じた場合、その後に登記官の過誤による移記漏れ、二重登記の開始、又は登記簿の抹消閉鎖等の事態が生じても、既に発生した仮処分命令の効力(処分禁止の対抗力)は消滅しない。また、当該命令の基礎となる所有権回復登記申請の編綴がなくとも、嘱託書の編綴があれば有効に登記の効力を生ずる。
重要事実
被上告人らはDから宅地を買い受け、移転登記請求権保全のため処分禁止仮処分を申請した。戦災で登記簿が焼失していたため、昭和21年5月、特別手続令に基づき仮処分命令の登記嘱託書が申請書綴込帳に編綴され、登記と同一の効力を得た。しかしDはその後、昭和22年6月に本件土地をEに売却し登記を完了。Eからさらに上告人が買い受けた。その間の回復登記手続において、登記官の過誤で仮処分登記の移記が漏れる等の不備があった。
あてはめ
本件では、嘱託書が綴込帳に編綴された時点で、当時の法令に基づき登記と同一の効力が有効に発生している。その後のDからEへの売却は、仮処分の効力として被上告人らに対抗できない。登記官の過誤による移記漏れや二重登記の発生、登記簿の閉鎖、さらには根拠法令の廃止などはすべて、DからEへの売却による「処分の制限」の効果が発生した後の事由である。したがって、これらの後発的事情は、既に生じている法律上の対抗力に何ら影響を及ぼさない。また、綴込帳への編綴は暫定的措置であり、所有権登記は新登記簿開始時に当然になされるべきものであるから、所有権回復登記の編綴を先行させる必要もない。
結論
上告人は、Eからの承継取得をもって、先行する仮処分の効力を有する被上告人らに対抗することはできない。上告棄却。
事件番号: 昭和30(オ)382 / 裁判年月日: 昭和32年9月27日 / 結論: 棄却
不動産に対する処分禁止の仮処分の登記嘱託書が、戦時登記特別手続令中改正勅令(昭和二〇年勅令第三九九号)第四条ノ二に基き申請書綴込帳に編綴されて仮処分登記の効力を生じた後、仮処分債務者がその不動産を甲に売渡したものであるときは、その後回復登記のため開始された新登記簿に、仮処分登記の移記が遺脱されたまま甲のため右売買による…
実務上の射程
登記官の過誤や登記簿の不備といった、実質的な公示の欠缺が債権者の関与しない後発的事由により生じたとしても、一度有効に発生した登記の効力(対抗力)は維持されるという、不動産登記の効力の持続性を示す事例として活用できる。
事件番号: 昭和34(オ)671 / 裁判年月日: 昭和37年3月23日 / 結論: 棄却
登記官吏の過誤によつて抹消された処分禁止の仮処分登記は、右抹消後回復登記前の登記簿上の所有権取得者に対して効力を有する。
事件番号: 昭和39(オ)231 / 裁判年月日: 昭和40年2月23日 / 結論: 棄却
処分禁止の仮処分の登記後に仮処分債務者から第三者に対し所有権の移転登記がされた場合において、仮処分債権者は、債務者との本案訴訟において実体法上の権利の存することを確定しないかぎり、単に仮処分債権者たる地位に基づいて、右第三者に対し、右実体法上の権利を主張して、前記所有権の移転登記の抹消登記を請求することはできない。
事件番号: 昭和34(オ)723 / 裁判年月日: 昭和35年12月9日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】所有権移転請求権保全の仮登記後、本登記がなされた場合、仮登記と本登記の間になされた処分は、本登記権利者に対して効力を有しない。また、共有不動産に関する登記の回復や抹消の請求は、保存行為として各共有者が単独で行うことができる。 第1 事案の概要:D所有の建物について、Eが所有権移転請求権保全の仮登記…
事件番号: 昭和28(オ)111 / 裁判年月日: 昭和31年7月27日 / 結論: 破棄差戻
不動産の譲渡人から与えられた代理権に基き、譲渡人の死亡後同人の代理人名義の申請によつてなされた移転登記は、それが現在の真実な権利状態に符合するものである限り、対抗力を有し、譲渡人の相続人は譲受人に対し、その抹消を請求することはできない。