不動産に対する処分禁止の仮処分の登記嘱託書が、戦時登記特別手続令中改正勅令(昭和二〇年勅令第三九九号)第四条ノ二に基き申請書綴込帳に編綴されて仮処分登記の効力を生じた後、仮処分債務者がその不動産を甲に売渡したものであるときは、その後回復登記のため開始された新登記簿に、仮処分登記の移記が遺脱されたまま甲のため右売買による所有権移転登記がなされ、次いで甲から乙が右不動産を買受けた場合であつても、乙はその所有権の取得をもつて仮処分債権者に対抗することはできない。
処分禁止の仮処分登記の移記が遺脱された場合と仮処分違背の売買に基く所有権の対抗力
民訴法755条,民法177条,戦時登記特別手続令中改正勅令(昭和20年勅令399号)4条ノ2
判旨
不動産処分禁止の仮処分登記が有効になされた後に、その登記が登記官の過誤により回復登記の際に移記されなかったとしても、既に生じた仮処分の対抗力は失われない。したがって、仮処分債権者は、その後の第三者への所有権移転を、仮処分命令の効力により対抗し得ないものとして扱うことができる。
問題の所在(論点)
有効に効力を生じた処分禁止の仮処分登記が、登記官の過誤による移記漏れ等によって登記簿から消失した場合、その後に当該不動産を取得した第三者(転得者)に対して、仮処分の効力を対抗できるか。
規範
有効に成立した処分禁止の仮処分登記が、その後に発生した登記官の過誤(移記漏れ)や二重登記の解消、あるいは根拠法令の廃止といった後発的事由によって登記簿上から外観的に消失したとしても、その仮処分登記によって既に確定的に生じた対抗力(処分禁止の効力)は、特段の事情がない限り消滅しない。
重要事実
被上告人らはDから宅地を買い受け、移転登記請求権保全のため処分禁止仮処分を申請した。戦災による登記簿焼失のため、当時の戦時登記特別手続令に基づき、嘱託書が申請書綴込帳に編綴され、登記と同一の効力を生じた。その後、DはEに同土地を売却し、Eは移転登記を経た。その後の回復登記に際し、登記官の過誤で仮処分登記が移記されず、また二重登記の発生・閉鎖等の混乱があった。上告人らは、Eから土地を買い受けた転得者である。
事件番号: 昭和30(オ)383 / 裁判年月日: 昭和32年9月27日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】不動産の処分禁止仮処分命令が登記嘱託書の綴込帳編綴により登記と同一の効力を生じた後、登記官の過誤等で当該登記が移記されず、又は登記簿が閉鎖されたとしても、既に生じた仮処分の対抗力は失われない。 第1 事案の概要:被上告人らはDから宅地を買い受け、移転登記請求権保全のため処分禁止仮処分を申請した。戦…
あてはめ
本件では、嘱託書が綴込帳に編綴された時点で、当時の法令により登記と同一の効力が生じている。DがEに対して行った売却処分は、この仮処分命令の効力発生後のものであるから、Eは被上告人らに対抗できない。その後の回復登記における登記官の過誤(移記漏れ)や二重登記の発生・閉鎖は、すべてDからEへの売却処分「以後」の事情にすぎない。かかる後発的事由は、既に生じている仮処分の法律上の効果を消滅させるものではない。したがって、Eからの転得者である上告人らの所有権取得も、被上告人らに対抗できない。
結論
仮処分登記が登記官の過誤により消失しても、その対抗力は維持される。上告人らは被上告人らに対し、所有権の取得を対抗することはできない。
実務上の射程
登記官の過誤による登記の不当な抹消や移記漏れがあっても、真実の権利者(または仮処分債権者)の権利は保護されるという「不当な登記の抹消と効力」に関する一般原則を示す。司法試験では、不動産物権変動の対抗問題(177条)において、登記官のミスで登記が消えた際の処理として本判例の論理を援用できる。
事件番号: 昭和34(オ)671 / 裁判年月日: 昭和37年3月23日 / 結論: 棄却
登記官吏の過誤によつて抹消された処分禁止の仮処分登記は、右抹消後回復登記前の登記簿上の所有権取得者に対して効力を有する。
事件番号: 昭和36(オ)882 / 裁判年月日: 昭和37年3月30日 / 結論: 棄却
不動産売買により既に所有権の移転がある結果、不動産登記法第二条第一号の仮登記をすべき場合に、売買予約を原因として同条二号の仮登記がなされても、右仮登記は順位保全の効力を有すると解すべきである。
事件番号: 昭和34(オ)723 / 裁判年月日: 昭和35年12月9日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】所有権移転請求権保全の仮登記後、本登記がなされた場合、仮登記と本登記の間になされた処分は、本登記権利者に対して効力を有しない。また、共有不動産に関する登記の回復や抹消の請求は、保存行為として各共有者が単独で行うことができる。 第1 事案の概要:D所有の建物について、Eが所有権移転請求権保全の仮登記…
事件番号: 昭和39(オ)231 / 裁判年月日: 昭和40年2月23日 / 結論: 棄却
処分禁止の仮処分の登記後に仮処分債務者から第三者に対し所有権の移転登記がされた場合において、仮処分債権者は、債務者との本案訴訟において実体法上の権利の存することを確定しないかぎり、単に仮処分債権者たる地位に基づいて、右第三者に対し、右実体法上の権利を主張して、前記所有権の移転登記の抹消登記を請求することはできない。