登記官吏の過誤によつて抹消された処分禁止の仮処分登記は、右抹消後回復登記前の登記簿上の所有権取得者に対して効力を有する。
登記官吏の過誤によつて抹消された処分禁止の仮処分登記の効力
民訴法755条,民法177条,不動産登記法68条
判旨
登記官の過誤により処分禁止の仮処分登記が抹消された場合でも、当該仮処分登記は抹消後の所有権取得者に対して効力を失わない。したがって、仮処分の執行後に不動産を取得した者は、回復登記の有無にかかわらず仮処分の権利者に対抗できない。
問題の所在(論点)
登記官の過誤によって処分禁止の仮処分登記が不当に抹消された場合、当該仮処分は抹消後に所有権を取得した第三者に対して対抗力を維持するか。回復登記がなされていない状態での効力が問われた。
規範
不動産登記制度における登記の効力は、実体上の権利関係を反映すべきものである。登記官の過誤により不当に抹消された登記は、実体法上の権利を消滅させるものではなく、また、公示の原則に照らしても、登記権利者の意思に基づかない抹消によってその対抗力を当然に失うものではない。
重要事実
債権者(被上告人)が不動産について処分禁止の仮処分登記を経由していたところ、登記官の過誤によって当該仮処分登記が抹消された。その抹消後、第三者(上告人ら)が当該不動産の所有権を取得し、その旨の登記を具備した。その後、仮処分権利者と譲受人との間で、当該不動産の所有権取得の対抗関係が問題となった。
事件番号: 昭和30(オ)382 / 裁判年月日: 昭和32年9月27日 / 結論: 棄却
不動産に対する処分禁止の仮処分の登記嘱託書が、戦時登記特別手続令中改正勅令(昭和二〇年勅令第三九九号)第四条ノ二に基き申請書綴込帳に編綴されて仮処分登記の効力を生じた後、仮処分債務者がその不動産を甲に売渡したものであるときは、その後回復登記のため開始された新登記簿に、仮処分登記の移記が遺脱されたまま甲のため右売買による…
あてはめ
本件における仮処分登記の抹消は、登記官の過誤によるものであり、仮処分権利者の意思に基づかない。このような不当な抹消がなされても、仮処分登記が本来有していた処分制限の効力(対抗力)は、実体法上および登記法上の原則として消滅しない。したがって、仮処分登記が抹消された後の登記簿上の表示を信頼して所有権を取得した者であっても、当該仮処分の効力を否定することはできず、仮処分権利者による権利主張を拒めない。
結論
仮処分登記が過誤により抹消された場合、仮処分権利者は回復登記を経ずとも、その後に所有権を取得した者に対して仮処分の効力を対抗できる。
実務上の射程
本判決は登記の公信力を否定する法制(不動産登記法)を前提としている。答案上は、不当に抹消された登記の効力が存続することを論じる際の根拠として活用できる。特に、仮処分登記以外の登記(抵当権等)が不当に抹消された場合の対抗力の判断においても、同様の論理(不当抹消と対抗力維持)を適用する際の有力な指標となる。
事件番号: 昭和39(オ)231 / 裁判年月日: 昭和40年2月23日 / 結論: 棄却
処分禁止の仮処分の登記後に仮処分債務者から第三者に対し所有権の移転登記がされた場合において、仮処分債権者は、債務者との本案訴訟において実体法上の権利の存することを確定しないかぎり、単に仮処分債権者たる地位に基づいて、右第三者に対し、右実体法上の権利を主張して、前記所有権の移転登記の抹消登記を請求することはできない。
事件番号: 昭和30(オ)383 / 裁判年月日: 昭和32年9月27日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】不動産の処分禁止仮処分命令が登記嘱託書の綴込帳編綴により登記と同一の効力を生じた後、登記官の過誤等で当該登記が移記されず、又は登記簿が閉鎖されたとしても、既に生じた仮処分の対抗力は失われない。 第1 事案の概要:被上告人らはDから宅地を買い受け、移転登記請求権保全のため処分禁止仮処分を申請した。戦…
事件番号: 昭和34(オ)723 / 裁判年月日: 昭和35年12月9日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】所有権移転請求権保全の仮登記後、本登記がなされた場合、仮登記と本登記の間になされた処分は、本登記権利者に対して効力を有しない。また、共有不動産に関する登記の回復や抹消の請求は、保存行為として各共有者が単独で行うことができる。 第1 事案の概要:D所有の建物について、Eが所有権移転請求権保全の仮登記…