仮処分命令により売買その他の処分行為を禁止された不動産の所有者は、絶対にその物件の処分権を失うものではなく、仮処分債権者に対する関係においてこれを処分することができないにすぎない。
処分禁止の仮処分命令の効力。
民訴法755条
判旨
処分禁止の仮処分に違反して不動産を取得した第三者は、仮処分債権者に対しその所有権取得を対抗できないが、債権者が本案訴訟で勝訴し実体法上の権利が確定しない限り、債権者は当該第三者の登記の抹消を請求することはできない。
問題の所在(論点)
処分禁止の仮処分の登記がなされた不動産について、その後に所有権移転登記等を得た第三者に対し、仮処分債権者が「本案訴訟での勝訴(実体法上の権利の確定)」を経ることなく、単なる仮処分債権者の地位に基づき直接登記の抹消を請求できるか。
規範
不動産の処分禁止の仮処分決定がなされても、債務者は物件の処分権を絶対に失うものではなく、仮処分債権者に対する関係においてのみ処分が制限される(相対的効力)。したがって、仮処分登記後に物件を買い受けた第三者は、仮処分債権者に対しては所有権取得の効力を対抗できないにとどまる。債権者が登記の抹消を請求するためには、本案訴訟で勝訴し、実体法上の権利が確定することを要する。
重要事実
上告人(債権者)は、本件土地について処分禁止の仮処分決定を得て、その登記を完了していた。しかし、その後、本件土地について被上告人(第三者)らへの分筆登記および所有権移転登記がなされた。上告人は、仮処分債権者としての地位に基づき、当該各登記が仮処分に抵触するものであるとして、その抹消を求めて提訴した。
事件番号: 昭和39(オ)231 / 裁判年月日: 昭和40年2月23日 / 結論: 棄却
処分禁止の仮処分の登記後に仮処分債務者から第三者に対し所有権の移転登記がされた場合において、仮処分債権者は、債務者との本案訴訟において実体法上の権利の存することを確定しないかぎり、単に仮処分債権者たる地位に基づいて、右第三者に対し、右実体法上の権利を主張して、前記所有権の移転登記の抹消登記を請求することはできない。
あてはめ
処分禁止の仮処分には、債務者の処分権を完全に奪う絶対的効力はなく、債権者との関係で不利益を及ぼさないという相対的な効力(対抗制限)が認められるにすぎない。本件において、被上告人らが仮処分登記後に登記を得たとしても、上告人が本案訴訟で勝訴し実体法上の権利(例えば所有権移転登記請求権等)が確定していない段階では、上告人には登記の抹消を求める実体法上の根拠が欠けている。したがって、単なる仮処分債権者であるという地位のみでは、登記の抹消請求は認められない。
結論
仮処分債権者は、本案訴訟で勝訴し実体法上の権利が確定しない限り、仮処分に抵触する登記の抹消を請求することはできないため、上告人の請求は棄却される。
実務上の射程
処分禁止の仮処分の効力が「相対的」であることを示すリーディングケースである。民事執行・保全法上の基本的な規律を確認するものであり、答案上は、仮処分債権者が本案債務名義を得た後に初めて民事保全法に基づく登記抹消の申請が可能になるという手続的帰結の論理的基礎として機能する。
事件番号: 昭和34(オ)671 / 裁判年月日: 昭和37年3月23日 / 結論: 棄却
登記官吏の過誤によつて抹消された処分禁止の仮処分登記は、右抹消後回復登記前の登記簿上の所有権取得者に対して効力を有する。
事件番号: 昭和28(オ)1340 / 裁判年月日: 昭和30年12月26日 / 結論: 棄却
一 不動産の譲渡人がいまだその登記をなさないうちに、その不動産につき譲渡人を債務者として処分禁止の仮処分登記がなされた場合においては、譲受人がその後に所有権取得登記をしても、これを以て仮処分債権者に対抗することはできない。 二 前項の場合において、仮処分債権者が自ら所有権取得登記をなしうるにいたつたときは、譲受人に対し…
事件番号: 昭和34(オ)333 / 裁判年月日: 昭和36年9月19日 / 結論: その他
【結論(判旨の要点)】不動産の二重譲渡において、後買主が登記を具備した場合、特段の事情がない限り、売主の前買主に対する登記移転義務は履行不能となる。また、中間省略登記がなされた場合であっても、それが実体上の権利関係に合致するものである限り、その有効性を否定することはできず、民法177条の対抗関係が維持される。 第1 事…
事件番号: 昭和33(オ)720 / 裁判年月日: 昭和35年11月15日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】相続による不動産の取得も、対抗問題(民法177条)となり得るが、相手方がその権利取得の事実を争わない場合には、登記の欠缺を理由に権利取得を否定することはできない。 第1 事案の概要:被上告人らは、共同相続を原因として本件山林の共有権を取得した。これに対し上告人は、被上告人らが共有権を取得した事実自…